20 恋の成就ボート
なにこの形おもしろい!
外から見ると何の装飾もない無機質な真四角の建物だが、中に入ってみると真ん中は天井がなく、地下をくり貫いた形をしている。地上階が建物としては3階になっており、1階と2階が地下2階と地下1階と変わった造り。中央の天井がない部分を目を凝らしてよく見ると、透明な魔法の障壁が作動している。王立魔法図書館で建築関係の図書に記されていたので効果は知っている。たしか空気は通すがそれ以外の雨や強風で飛んでくる飛散物、虫などを遮断する効果のある魔法装置だ。
全部で16部屋あるので、とても広々。今回5人しかいないので伸び伸びできる。
部屋に荷物を置いて、どこに出かけようかと共用スペースに集まって相談しているとチャイムが鳴った。エマが玄関のドアを開けるとキャムとミラノ、そして爽やか日焼けイケメンのウェイク・ルーズベルトの3人が立っていた。
ミラノが3人を代表して説明を始める。
キャムの家……テイラー家の別荘があるが改装中で泊まれなかったので、ここに泊めて欲しい、と……。
ふむふむ、なるほど……って、ふざけるなニャろぉー!? 絶対サラサの恋路を邪魔しに来やがったな?
だけどこの別荘の持ち主、エマは気が弱い。「はっはひっ」となかなか聞けないセリフを吐いてOKしてしまった。
総勢8名、まだまだ部屋に余裕があるが、なんだか一気に空気が重くなったのを感じる。
押しかけ組3人の部屋割りが決まり、荷物を置いてもらったので、ようやく外出できた。
少し離れたところに管理された池があって、スワンボートではなく、カエルのボートがある。このカエルのボートに乗って1時間釣りができる。もちろんエサ付き、竿付き、バケツ付きだ。すべて同じに見えるカエルのボートだが舌がピンク色のカエルボートが1艘だけある。なんでもこのボートに一緒にのった男女はいつか結ばれるというジンクスがあるそうな。私は事前にエマからその情報を聞いていたのでさっそく行動に移す。
「サラサ~あのねー」
「サラサ、俺のボートに乗れ」
「……はい」
私がサラサにレオナード皇子と一緒にカエルボートに乗ってもらおうとしたらキャムに邪魔された。やはりここで仕掛けてきたか……。
「か弱い女性に漕がせられません」
「は、はひっありがとうございます」
「ロニ漕いで~ボク釣りたいから」
「まったく、しょうがないな」
ミラノがエマに気を使って誘った。レオナード皇子はロニに甘えて自分だけ釣りに集中しようとしている。ということで残りは……。
「おう、よろしくなっ!」
「ええ……よろしく」
残ったのは私とウェイク・ルーズベルト。こんがり焼けた顔から白い歯を覗かせ、私に爽やかに挨拶してきた。
ちょっと待てよ。例のカエルの舌がピンク色のボートしか余ってないじゃん。
顔はもちろんイケメンで、服の上からでもその逞しい鍛えられた筋肉はハッキリとわかる。性格もサッパリしていて裏表がない。
レオナード皇子ほどではないが、彼もかなりモテるので彼に近づこうものなら女子の新たな敵を作ってしまう。
「シリカ、釣りで勝負だ」
「え~~~……ヤダ」
なんだろう? キャムのヤツ、やたらと私に挑んでくる。先ほどサラサと皇子のふたりっきりの時間を邪魔したのを私は数年は根に持つと思う。そんなヤツの言うことなど聞くわけがない。
「へっ負けるのが怖いってか?」
「は?」
いかんいかん、安い挑発に乗っちゃダメなのは知っているがコイツの顔を見ていると沸々と怒りが込み上げてくる。
「いいじゃん、じゃあ3組でどの班がいっぱい釣れるか勝負しようよ?」
レオナード皇子までやる気になっちゃった。止むをえまい。
「数? それとも大きさ?」
「あーん? 男ならデカさで勝負だろ?」
私は女だ、この愚か者め! ……とキャムに言い返したくなったが、あとが面倒臭そうなのでツッコまずに流すことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます