18 いじめを潰す
「ハッハァー! どうだシリカ?」
そこでなぜ私の名を呼ぶ? キャムは振り返って私をみる。
それにしてもおかしい。10年という時間があったとはいえ、この男がその間に一生懸命に魔力と魔法を磨きあげるだろうか?
キャムのことを無視していると次は私の番となった。
どれくらいの魔力を込めようか?
その気になればキャムよりはるかに高い威力を出せる。なんだったら奥の壁を壊すのだって容易い。
だけど目立ちたくない。私は主人公サラサと違ってモブ的存在……トップではないがそこそこ上位の成績で卒業して、父の働く国立図書館など下位貴族でも働ける場所へ就職したいと考えている。
そういうわけでレオナード皇子とエマの中間くらいの威力で的に当てた。
私がうしろに退がるときにキャムが「くくくっ」と笑っている。──まあ笑っておけばいい。
そして最後の3人が呼ばれるとサラサが魔力を放つ。私は彼女の魔力のわずかなブレに気が付いた。あの子もまた私と同じく魔力の放出を抑えている。原因はおそらくキャム。彼より目立たないようにしているんだと思う。10年前に会った時はもっと魔力が高かった。この10年で彼女なりに覚えた処世術なんだろうが、私にはどうにも不憫にみえてならない。
次に魔力エネルギーをコントロールする実習が始まった。
両手でかざした魔力のエネルギー体を丸くしたり箱型にしたりする。魔力のコントロールはレオナード皇子がもっとも得意で次になんでもできちゃうロニとメガネ男子ミラノが続く。私とサラサは例のごとく手を抜いてそれなりの結果を出す。しかし……。
「あーくそっなんで俺だけデキねーんだ!」
キャムがかなりイライラしている。あれだけの魔力を撃てるならそれなりに制御できても良さそうだけど、魔力が暴れて抑えきれてないみたい。なぜそうなるのかは私には理解できない。
魔法実習が終わり、カラダが動かしやすい実習服から制服に着替えていると着替え室で他のイベントが始まった。
平民であるサラサに対する嫌がらせ。ゲームでも中級階位程度の同級生の女子から嫌がらせを受けていたが、今回の標的には私も含まれている。
要は皇子やロニといったアイドル的存在と仲良くなっている下級貴族や平民が許せない、というなんともしょうもない嫉妬からくるもの。
ロッカーのサラサと私の靴下が無くなっていた。探知魔法を使うと高窓の外から投げ捨てられていたので、遠隔魔法で取り寄せる。彼女たちの陰湿なイジメはレオナード皇子から厳しい忠告を受けるまで続く。ゲームのように耐え忍んでやり過ごせばいいのだが、彼女たちのイジメはこれからどんどんエスカレートしていく。
イジメをする人は罪の意識は薄い……というか無いかもしれない。どこまでその人をイジメていいのか、自分に反撃してこないかなどを見定めながら陰湿なイジメは延々と続けていく。まあ一種の病気みたいなものだ。
なので、ここでハッキリさせようと思う。
「あー、靴下がボロボロー。次やったら呪術系魔法で潰してあげるから勇気があるならまたやってごらん♪」
笑いながら大きなひとり言をつぶやくと、一部のニヤニヤしていた女子たちの表情が凍り付いた。一応、その気になれば呪術系の類も覚えているので本当にやろうと思えばできたりする。
でも、その表情にはまだ怒りの感情が含まれている。これではやめない可能性があるので、もう少しだけ脅しをかけておこうと思う。
「冷やかしたら潰す」
「悪口を言ったら潰す」
「脅し文句も潰す」
「嫌味な発言も潰す」
「ぶつかってきたら潰す」
「遊びと称して叩いたり、蹴ったりしても潰す」
「仲間はずれにしても潰す」
「集団による無視も潰す」
「物を隠したり、盗んだり、壊したり、捨てたりしても潰す」
「お金を
「私のこのサイコな発言を教師や親にチクっても潰す」
「あと私が気に入らなかったら潰す」
私の発言を聞いて、イジメっ子とみられるグループは戦意を失い、顔が蒼ざめてる。これならたぶんもう大丈夫だと思う。
呪術系の魔法は悪用すると証拠を残さず相手を葬り去ることもできる危険な呪法だ。だけど高位の魔法使いともなれば〝魔法痕〟というものを探知できる。でも私は魔法のエキスパートのふたりの師匠から魔法痕すら残さない呪術系魔法も習っているので証拠は絶対に残さない。まあ、そんなことはしないのだけれども……。
この一言? で私たちふたりへちょっかいを出すものはいなくなった。
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