2 裏切り
「まだ付き合ってんの?」
「うん」
「顔はいいけど性格がなぁ……」
友人から連絡があり、カフェ店で待ち合わせをした。
アー君は「誰? 俺の知ってるヤツ?」としつこく聞いてくるので、1回アー君も一緒にご飯を食べに行ったことがある友人の名前を出したら「アイツ絶対性格悪いよな」と出かけようとしている私に友人の悪口を言いだした。
そして、その友人もアー君の悪口を並べ立てる。
「まず休日に〝俺ん家に来い〟は詩乃をゼッタイ都合のいい女だと思ってるって」
「うーん、でも放っておけなくて」
「ダメだ。完全にクズ男に洗脳されてるパターンじゃん」
友人いわく、クズ男は自己中で嘘つきだが、甘え上手なため、はっきりNoと断れない女性にすり寄ってくると話す。
友人の話を聞いていたら、急に気分が悪くなってきた。私は急いでトイレへ向かう。
「もしかして……」
「そうかもしれない」
トイレで
友人の予想通りだと思う。私はさっそく日曜日に空いている産婦人科を見つけて予約した。電車を乗り継いで30分はかかるところだけど、気になるので今日で行ってしまおうと行動に移した。
✜
(アー君、今ちょっといい?)
病院から出て、駅に向かう途中でアー君にSNSで連絡したが既読がつかない。いつものことなのであきらめて改札を抜けようとしたら、視界の端にアー君が映った。
アー君の隣に女性がいる。見たことのないひとでふたり仲良く並んで駅を出たところで見えなくなった。
慌ててあとを尾ける。すると駅にほど近いテナントビルの2階にあるダイニングバーに入って行った。
中に入るとさすがにバレてしまいそうなので、どうしようか外で迷っているとお店の窓側に座ってくれたので、外から様子が確認できた。
私は通りの反対側にあるファストフード店の2階へ上がって向こうから顔を見られないようスリット窓のある席に座り、覗き込むようにふたりの様子を確認する。
途中でSNSで連絡を送るとアー君はスマホを取り出すが、私だと知ったからなのかスマホをすぐにしまった。
思い切って電話もしてみたが、機内モードに切り替わっていた……「おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためかかりません」というアナウンスが流れる。
数時間後にお店から出た二人はそのまま繁華街を抜けて、ラブホ通りの角を曲がった。追いかけるとホテルのひとつに入ろうとしたので、アー君を呼び止めた。
「アー君こんなところでなにをしてるの?」
「詩乃……」
うまく言葉が出るか心配だったけどちゃんと言えた。相手の女性は私とアー君を交互にみて溜息をついた。
「彼女いないって言ってた癖に二股かよ」
「はぁ?
──え。
急に声が聞こえなくなった。視界がぐるぐると回る。めまいに襲われ近くの壁に手をつき倒れるのを防ぐ。
1年前、職場の飲み会で酔って潰れた私を介抱すると言って自分の家に連れ帰ったアー君。酔っていたせいで記憶があいまいで朝、気が付いたらアー君のベッドで彼が裸で隣に寝ていた。
それから私は合いカギをもらい、足繁く通っていたから、付き合ってるって思ったのに……。たしかに告白されてないし、してもいない。でもそれは私たちの間では告白する必要なんてなく付き合ってると思っていたから……。
「重い空気って苦手なんだよね~。じゃあもう連絡しないで」
「ちょっおい待てよ……ちっ」
アー君は『ガンッ』とホテルの看板を蹴ると、私に「帰るぞ」と言って背中を見せた。
「ねえ、アー君、聞いて欲しいことがあるの」
「ああっ? なんだよ、別れるっていうなら俺たち付き合ってねーからそんなん要らないんだけど?」
「赤ちゃんができたの、」
「……で?」
もう一度、軽くめまいに襲われる。でも言葉を続けられた。
「アー君の子だよ?」
「証拠は?」
やっぱり……友人の忠告は嘘じゃなかった?
「証拠なんてあるワケないじゃない、私、アー君しか男のひと知らないのに」
「ちょ……放せって!」
取り乱して、アー君の腕にしがみついたら、腕を払われ体勢が崩れて背中から倒れそうになったのでとっさに身をよじる。
倒れていく私の視線の先に道路の縁石があった。手でお腹を庇おうとしたが、間に合わず私はお腹を強く打ってしまった……。
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