第9話 決意によって縮まる距離
教会に住み始めて十二年……俺は十九歳となり、リーズは十八歳になった。
子供の頃と比べて体格も俺とリーズの関係性も大きく変わった。
まず俺は体格も成長したおかげで筋肉が付き、ミレーユさんに勉学を教わっていたこともあって、それなりに大人へと成長しているつもりだ。
なぜ、そんなあやふやな答えなのか。成長したのなら、成長したとはっきり言ってしまった方がいいのでは?と思うだろうが、自身の能力は自身で判断するのではなく第三者が判断する。
これがこの世界の習わしらしい。
これもすべてミレーユさんから教わったことだ。
いくら自身の能力が他の者より優れていたとしても、第三者が他者の方が優れていると判断した時、周囲の者からは自身が劣っていたという扱いとなるみたいだ。
これらの話を初めて聞いた時、本当に人の世は色々と大変だ、と思ったのは今でもはっきりと覚えている。
そしてリーズについても俺と同様色々と成長した。子供の頃と比べて印象もまるっきり変わり、短かった青色の髪は今となってはサラッとした艶のある長い髪になり、無邪気だった性格は今は大人びている。まるでリーズの母親であるセーラさんにそっくりだ。そして暇さえあれば教会に置いてある本を読み漁り勉学に励んでいるが、どこからそんなやる気が溢れてくるかは謎だ。
けど、そんな俺とリーズだが一つだけ未だに忘れていないことがある。それはあの村で起きた惨劇、必ず報復する、その誓いを。
これらがあって俺たちはここまで成長してこれたのだ。
「ねえ、リヒト君。わたしちょっと出てくるわね。教会のことお願いしても大丈夫かしら」
そう声を掛けてきたのは、もう十数年も経つというのに容姿が出会った頃とまったく変わらないミレーユさんだ。
驚くほどまったく変わらないその容姿は、本当に人間か?と疑いたくもなるほど。
リーズはよくミレーユさんに美容の秘訣を聞いてるらしいが、ミレーユさん自身特別なことは何もしていないらしい。
それを聞いたリーズは常に「絶対に嘘!」と都度言っている。
なぜ、女性はそんなに美容にこだわる?
別に素のままでいいじゃんって思い、リーズに言うまではよかったが、まさかの暴力沙汰にまで発展する事態になるとは思わなかった。
この理不尽極まりない事件以降、俺は認識を改めた。女性は自身を綺麗に見せたい生き物なのだと認識することにしたのだ。
「ミレーユさん今日はどこに?」
「教会本部よ、どうしたの何か悩みでもあるの? もし何かあるのだったら本部に行く日を改めるけど」
「ううん、教会は俺に任せて」
「そう? なら行ってくるわね。あ、それとリーズちゃんとは仲良くするのよ」
先に言って置くが、決して俺とリーズは仲が悪いわけではない。最近は昔に比べて話す機会がなくなっただけのことだ。
年頃の女性だから仕方ないのかも知れないけど、さすがに食事の時や話し掛けた時ぐらい普通に話してくれても……そうやって少しショックを受けてる俺です。
でも、何で俺からすぐ離れて行くんだ?
もちろん俺はリーズが嫌がることをした覚えはないし、しつこくちょっかいを出すこともない。
本当に乙女心って難しいな……。
ミレーユが帰ってきたら一度相談にでも乗ってもらおうかな。
「そんなこんな考えてると無性に甘い物が急に食べたくなってきたな」
俺はそう独り言をぶつぶつ言いながら食堂に向かうと、そこにリーズの姿があった。
「なあ、リーズ」
「何か用?」
「いや、用ってわけじゃないけど……」
「なら話し掛けないで」
そう告げたリーズは真っ赤な果実を持って、書斎の中に姿を消した。
ずっとこんな状態で「用がないなら話し掛けないで」そんな感じのことしか俺には言ってくれない。
やっぱり俺、何か悪いことしてしまったのでは……。考えろ……考えるんだ、リヒト・レンベル。俺は女性を落とす達人の父さんの息子だぞ。
そんな俺に掛かればリーズなんて……。
そう覚悟を決めた俺だが、ミレーユが帰ってきてすぐさま相談した。
結局は自分で解決できる自信がなかったのだ。
「ミレーユ、リーズが無視するんだ」
「えっ!? そうなの?」
「最近リーズが俺から離れていくんだ。何か聞いてない?」
「うーん……そうね。思春期だから一緒にいるのが恥ずかしいのよ。きっと!」
「でも、俺は全然恥ずかしくないのにな」
ミレーユは困り果てた顔をしながら、リーズがいる書斎へと向かった。
何か告げ口をしたような感じになってしまった……。
リーズが怒って俺の所にこなければいいが……そんな不安とリーズに構ってもらえない寂しさもあり、どうしても落ち着かない。
俺は一旦、自分の部屋に戻ることにした。
そしてベッドで横になりながら考えた。
いつしかミレーユに提案された〝
本来、ロベルト王国内にある教会本部に訪れ、神父あるいは聖女が執り行う儀式のようだが、今回はミレーユがこの教会で執り行ってくれるみたいだ。
もちろん正規のルールではないみたいだが、神父や聖女の資格を持つ者なら本部に手続きさえすれば黙認されるといった訳のわからない暗黙のルールも存在するみたいだ。
……でも最初聞いた時、思わずびっくりしたな。まさかミレーユが最高位職の聖女様だったとは。
俺も元神ではあるが……人に固有スキルを授けるなんてことしたことないけどな。
いや、まあ俺の記憶がないだけか……。
話は戻るが固有スキルを習得したとしても、報復の役に立たなければ何の意味もない。
そのため今まで保留としてきたが、そろそろ頃合いなのかもしれない。でも俗にいう弱小スキルと呼ばれるものを獲得してしまった場合どうする?
それこそ俺自身の存在価値がなくなってしまう。
そんな感じで俺一人で悩みごとをしていると、
「ねえ、リヒトいる?」
この声は……リーズか?
どうせ告げ口したとか何とか言われるんだろうな。そう思うとあまり気が乗らないが、ミレーユに相談したのは俺だし……せっかくリーズもきてくれたんだ。
今本音で語り合わないと、これから先どうなるかもわからない。
「いるよ。ていうか、お前の部屋でもあるんだから、普通に入ってこいよ」
「そう、なら入るわ」
リーズは部屋に入り、自分のベッドに腰掛けた。
「んふふ、リヒト。最近、私と喋ってないから寂しかったみたいね!」
「ハア! 別に寂しくなんか……」
「ミレーユに相談したくせに!」
「ぐっ、確かに相談はしたけど、あれはお前が悪い。だって近づくと離れるし、話しかけると無視するし、まるで俺を避けてるみたいじゃないか!」
「避けてないわよ。私達の未来のことを考えてたの」
リーズはどうやら俺と一緒で今後の方針について考えていたようだ。
本当に立派に成長したんだな。それに比べて俺は……でも一番優先すべきことは最初から決まっている。リーズを守ることだ。
そして第二に王国に報復することだ。
今は報復する力の欠片すらもないが、きっといつかは……。
俺は真剣な面持ちでリーズを見つめながら再確認する。
あの時の決意が変わっていないかを確認するためだ。
「あの日、俺たちの家族は……。本当にいいんだな?」
「うん、この命に代えても報復は必ずやり遂げる……必ず、ママの仇を」
そう答えたリーズは、もう一度固く決意したかのように拳を強く握り締めるのだった。
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〈作者からのお知らせ〉
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