三、まっさらな嘘
第12話
R食品のグループディスカッションが終わり「大学院生じゃない」と実里に嘘を見抜かれてから、俺たちは連絡先を教え合い、就活の情報を交換しようという話になった。
彼女は俺が通っていた大学から程近い、私立大学の大学院に通っていた。そのため、必然的に下宿先も近かった。
できればまた会いたい、と言ってきたのは彼女の方だ。
記憶の中の彼女が、こんなふうに自分から誰かを誘うなんてことはなかったので驚いた。どう見たって、俺の記憶と、この日「初めて」会った特殊能力を持つという彼女は人間像が違っていた。
正直な話、高校を卒業し、彼女と会えなくなってから7年間、一度も彼女のことを忘れた日はなかった。四六時中考えていたわけではないが、頭の片隅にはいつもどこかに彼女と過ごした時間の記憶がある。その記憶に、助けられた日もあれば苦しめられた日もあった。最近になってようやく化石のように記憶が脳にしみつき墓場まで大切に持っていけると思っていた矢先、再び彼女を目にする日がくるなんて、思ってもみなかった。
だが久しぶりに再会した彼女は、俺の全然知らない目をしてディスカッションでの話し合いを引っ張っていた。さらに人の嘘を見抜くことができると豪語し、余計に俺の記憶は混乱していた。一体彼女は誰だ。彼女の方は俺のことを覚えていないように見えた。覚えていない? そんなことがあるのだろうか。高校二年生の秋から三年生の終わりまで付き合った元恋人のことを忘れるなんて、そんなこと——。
考えだすときりがなく、俺は今日も他の会社の面接試験があることを思い出し、一度頭の中をリセットした。
松葉実里。高校時代、俺が全身全霊をかけて愛した人。
その人がなぜ別人のように変わってしまったのか、真相は本人に聞くしかないようだ。
無事に、と言っていいのか分からないが、特に目立ったミスもなく今日の面接を終えた俺は、電車の中でスマホをチェックしていた。すると早速彼女から連絡が入っていて「明日の夜にご飯食べに行かない?」と軽く誘ってきた。こんなふうにカジュアルに男をご飯に誘えるなんて、彼女はやっぱり変だ。
俺は迷わず「大丈夫」と送り返し、スマホを閉じる。
また、彼女に会える。
別人のようには見えるが、松葉実里であることには変わらない。俺はまだ明日の話だというのに、面接の時みたいに心臓が速く動き出すのを感じていた。
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