すべては嘘で、できている
葉方萌生
一、初めての出会い
第1話
溌剌として明るい彼女に出会ったのは、2025年4月10日の今日が初めてのことだった。
「大学院生? それじゃあ私と同じじゃん」
10分後に始まる大手食品会社・R食品のグループディスカッションの席で、正面に座る彼女が、自分と共通点のある相手を発見し、分かりやすく頬を綻ばせた。ねえねえ何を研究してるの? なんでこの会社に応募したの? と矢継ぎ早に質問してくる様も、俺にとってはまさに青天の霹靂。就活の場でこんなふうに積極的に自分に質問してくる子がいると思っていなかった俺は、ドキマギしてしまっていた。
「てか今から何話し合うんだろうね? 食品会社、受けるの初めてだから緊張してきた」
まったく緊張していない様子であははと笑う彼女の顔を、俺は凝視した。
同じグループの他の学生も、この緊張した場面で明るく笑い飛ばす彼女を見て目を丸くしていた。彼らは俺たちより年下の大学四年生だ。自己紹介で分かったことは、この場にいる五人のうち三人が大学四年生、残る俺と実里が彼らよりも年上だということだ。
「早瀬くん、だっけ? 今すっごい緊張してるでしょ。どんな議題が来るのかってドキドキしてる」
彼女こと、
「え? あ、はい。実は俺、グループディスカッション初めてで」
「そうなんだ。あ、でもそれって本当は嘘じゃない?」
「はい?」
初対面の彼にずけずけと「嘘じゃない?」なんて聞き返す実里に、俺を始めその場にいた全員が目を瞬かせた。
「いやいや、だって『初めてだ』って言った方が、面倒な役割とか押しつけられなくて済むし。あ、でも大丈夫。私はそういうの他人に押し付けたりしないから!」
「……そうですね」
敗北した様子で肩をすくめる早瀬君を見ると、どうやら実里の聞いたことは図星だったらしい。つまり、彼はグループディスカッションが「初めて」ではない。
どうしてそんなことが分かったんだろう。自分も初めてだと嘘をついた経験があるのだろうか。でも、このあっけらかんとした実里がわざわざそんな姑息な嘘をつくようには見えなかった。
「それでは今からグループディスカッションを開始します。30分後に各グループより発表をしていただきますので、頑張ってください」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます