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帰りに旅人が行き来する大きな道沿いの店で、蕎麦そばを食べた。

滅多に食べることのできない物だから、りつが一口食べるごとに「おいしい!」と言う。

その時の笑顔がとても可愛くて、俺の顔がだらしなくなってしまうのを止められなかった。


満腹になって、ついでに必要な物も買って、家に戻った。

家に着いた頃には、すっかり辺りが暗くなっており、慌てて囲炉裏の中の種火を起こした。

その種火で、板間と土間にある油に火を灯す。

かめの中の水を囲炉裏の上に吊ってある鉄鍋に入れて湯も沸かす。

その湯で手拭いを絞って、りつの顔や身体を拭いて寝巻きに着替えさせた。


「りつ、今日は疲れただろ?もう寝なさい」


着替えている間、眠そうに目を擦るりつを見て、急いで薄い布団を敷く。

最近は朝晩が冷えるから、布団の上から毛皮をかけてやる。


「ゆきはる…、暑いよ?」

「夜は冷える。りつが風邪を引かぬようにする為だ」

「でも火もあるから大丈夫だよ?」

「いいから。とりあえずかぶっておけ」

「はーい…」


不満そうに返事をしたと思ったら、すぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。

囲炉裏の火に照らし出される丸い顔を覗き込む。

伏せた長いまつ毛が、色の白い顔に影を落とす。

いずれは、とても美しく成長するだろう。

りつは男だけど、変な奴に絡まれないか心配だ。

そこまで考えて、ふ…と笑いを零した。


「すっかり父親だな…。家族とは、こんなにも愛しく大切なものだっただろうか…。りつ、俺が必ず守ってやる。だから、決して俺の傍から離れるな」


俺はかすれた声で呟いて、りつの柔らかい頬に唇を寄せた。


「んぅ…ゆき…はる…」


その時、いきなりりつの声がして、俺は慌てて顔を離した。だけど規則正しい寝息は続いていて、寝言だったのかと安堵あんどの息を吐く。


「俺は…何をしている?父親とは、こんな風に子供に触れたいと思うものなのだろうか…?」


布団から出たりつの小さな手をそっと握って、布団の中にしまいながら、俺の両親のことを思い浮かべた。



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