⑰夢の手帳
ゆるやかに再開された
夜が深まるにつれ、にぎやかな
しみじみとした穏やかな空気を
いい加減酔いもまわり、甘ったるい美酒にやや飽きもきていたが、西大陸には出まわっていない島独自の酒であると聞いては、まだ切り上げてしまうには
しかしそうは言っても、
「
「!」
「
トトはパッと小さな手で顔をぬぐうと、困ったように苦く笑った。
「シノ殿は、なんでも
「いやさいやさ」
むしろネズミほど分かりやすい者もそういないのだが、
「赤鬼どもに勝利し、故郷を奪還し、明日には念願の船が出る。こんなめでたい席でなにを
トトはためらうように数度
「勝利、確かに勝利でございましょう……。ミクトランは
しかし、と大きな瞳が
「たった一度の勝利を築くために、あまりにも、あまりにも多くの
ついぞ
ただ、この小さな生き物が、恐るべき
「喜びを分かち合う仲間もおらず、どうして勝利に酔いしれることができましょう」
彼の小さな背中には、どんなに言葉を尽くしても語り尽くせぬ苦悩が重くのしかかっているようだった。
しかし、そんな過去の暗い幻影を振り払うように、トトは首を振った。
「ミクトランを
「自分の夢?」
「
トトは
日に焼け、黄ばんだ分厚い
「祖父の遺品です」
まるで
「我らはご覧のとおり身体が小さい種族ですので、船を操り海を渡ることができぬのです。しかし若く好奇心旺盛だった祖父は、無謀にも
誇らしげにトトは語った。
「一族の者の中には、祖父の話をホラと笑う者もおりましたが、トトは幼い頃から祖父の話す
まだ
「いつか自分の足で西の大陸を歩き、祖父の話が本当であったと確かめるのが夢でございました」
ふいに、トトは
「しかしシノ殿と出逢い、トトはすでに夢をひとつ叶えてしまいました」
「……俺が? そりゃまたどういう?」
いそいそと開かれた
「
「……そうだな」
読みあげられた内容に対していろいろと気になる点はあるが、あまりにもネズミが楽しそうなので、こまかく突っつくのはやめにしておいた。
たまにはいいじゃないか、と
今は、小さな
「それで、着いたらどこへ行く? 西の大陸にはなにがあるんだ?」
「それはもちろん、
トトは
美食の街フルークトゥス、水中都市グッタ、宝石の山脈ミネラ、獣人の
そして西大陸に住む種族についても、面白おかしく
黒き
とめどなく
興味がそそられるままに西へ東へ、あてなく気ままな
「そりゃあ楽しみだな」
無意識に、
すると突然、トトがずい、と身を乗り出してきた。
「よろしければご一緒しましょう! トトは、シノ殿とともに旅をしてみとうございます!」
「俺もそう思っていたところだ」
打算ではなく、心からの言葉だった。彼との旅はさぞかし楽しいことだろう。
二人は顔を見合わせて、ニッと白い歯をみせた。
そして、ボロボロの
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