⑮宴と武勇伝
夜がふけていく。
島をあげた盛大な
「すげぇ! 十五人抜きだー!」
いつの間にやら、
島随一の
それらをごぼう抜きにしている内に、彼らとの間にあったよそよそしい壁は嘘のように氷解していた。酒の力とは偉大である。
まろやかな口当たりだが、
とろけるような後味と、カッとほてる熱が心地よく癖になるのだ。
酔いにまかせておっかなびっくりつまんだゲテモノ料理も、予想に反して悪くない味であった。
そもそも、いろいろと誤解だったようなのだ。
てっきり血だと思い込んでいた
赤い汁はピリリと辛く、
驚いたのは、その他の、
現世の魚とはかけ離れた姿形であるが、ヘドロの海坊主しかり、地獄の海に住む生き物がおどろおどろしい風体なのは、かえって当然のことかもしれない。
幸いにして、それらを口にしても今のところは腹をくだすことなく済んでいる。
食欲も満たされ、なおかつ美味い酒がふんだんにあるとなれば、いやがうえにも気分が上むこうというもの。
多少の酔いもまわり、島の
「素晴らしい
「ごっふ!」
――酒が器官に入った。
「不覚にも
「な、なんと!」
「本当かいそりゃあ!」
一斉に、四方八方から興味深げな視線が突き刺さった。
幾十もの青紫の瞳には、真偽を疑うようなものも含まれていたが、それ以上に好意的な
他種族が赤鬼を倒したという筋書きが、よほどお気に召したらしい。
特に、ネズミが語る大活劇の渦中にいた青鬼たちからの視線が痛い。
すると、腰あたりの衣服がくいくいと引かれる。
見おろせば、きらきらと瞳を輝かせた子供が、物言いたげにこちらを見つめていた。
暗い鉄格子のむこう側で、声を押し殺し泣いていた少年である。
「助けてくれてありがとう、
「…………」
ぐっ、と東雲はたじろいだ。
この男、悪意に満ちた視線にさらされることは屁でもないが、このように純粋で裏表のない好意をぶつけられた経験がなかった。
酒で鈍った思考もあいまって、あけすけな
「つ、ついでだ……」
なんとか絞り出した声は、みっともないほどぎこちなく、ぶっきらぼうであった。
そんな
一転して食卓が
その間も、ネズミの口からはやや誇張された
もとより
純真を絵に描いたような性格から語られる
おかげで、逃げ出した他の青鬼たちまでもがわらわらと
ついで、と言ったのは嘘ではない。
彼らを助けた動機は、まっさらな善意ではなかった。
しかしながら、その行為にまったくの
海賊どもに損害をあたえたければ、極端な話、青鬼たちは
わざわざ逃がしてやることはなかったのだ。
むしろ不測の行動を起こされる危険性を考慮すれば、自分ひとりで逃走を試みるべきであった。
実際、例の泥棒娘によってどれほど
そうであるのに、トトが彼らを逃がすことを
慣れないことはするものではない。
自覚したせいで、酒の熱以外の理由から顔が熱くほてった。
図星だからこそ、反論の言葉が即座に出てこない。
いつもならば息をするように
我が事ながら気色が悪いことこの上ない。
「いや、俺よりも、あのネズミこそだ。先に赤鬼へ喧嘩を売ったのはヤツだ。そして見事にひとり討ち取っている」
どよめきが起きた。
青鬼もネズミも同じ東大陸の出身であるはずだが、やはり赤鬼相手にネズミが
上手いこと注目の
真相を問う声や、健闘を褒めたたえる言葉の嵐に、一転してもじもじと尻尾をいじりながら口ごもっている。
してやったり、と
そして、称賛の波があるべき方向へ流れたことに、ほっと胸をなでおろすのだった。
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