②堕獄
すべて想い出した。
かくして彼の人生は、あえなく幕を閉じた――……はずであった。
「お、おぉ……!」
動く。足もある。
ぱたぱたと全身をくまなく叩き、しまいには犬のようにその場でくるくると回り出した。
「い、生きている……! いや、やっぱり死んだのか!? どっちだ!?」
彼を死にいたらしめた傷も、矢に塗りこまれていた毒も、きれいさっぱりなくなっている。こんな都合の良いことがあっていいのだろうか、まるで
あまりに非現実的な展開に
死後の世界など、ありはしないと思っていた。
杉の巨木に身をあずけたまま、自分のすべてはあの瞬間に終わりを迎えるのだと絶望した。
それがどうだ。こうして自由に動かせる五体満足の体がある。これ以上に望むことなどあろうか……。
じわり、と全身が熱をおびる。次第に笑いが込み上げてきた。
笑うなど何年もしていなかったので、引き攣りうまく声も出せなかったが、彼は忍者になってはじめて、腹の底から思う存分笑い転げた。
「くッ、ははッ……! 生きてる、生きているぞッ!」
この際ここが地獄だろうと構わない。
たとえ寝物語に聞くようなむごたらしい奈落の底であったとしても、――それがなんだというのだ。そんなことは些細な問題に思えた。
「
歓喜のあまり全身が震え、じんわりと汗までかいてきた。
今度こそ何者にも指図されず、己の好きなようにやってやろうではないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます