第2話 魔術と先生と魔石

「魔術…でしたっけ?それはどのように使うのでしょうか…?」


タイガとの初対面から2日経った。

今はオーナーに魔術を教えて貰うためにとある訓練場へ来た。


「この間、俺が魔術を教えてやろうと言ったが、俺よりもっと適している人間を見つけた。彼女だ。」


視線を向けると、白髪の長い髪が特徴的な女性がいた。

女性が振り向くと、そのとてつもない美貌に見惚れてしまう。が生憎、婚姻済みで旦那さんもとても強い方だそうだ。

いや、私は女なので関係ないのだが、この美貌には女である私でも惚れてしまいそうになる。



「宜しくお願いします。わたくしの名前はファイリア・マレーノティア。どうぞ、ファイリアと呼びなさって。」


「私はリンと言います。今までは武術しか習わなかったので、魔術のことに関しては全くなのですが、是非、ビシビシとご鍛えください!よろしくお願いします!」


元気よく挨拶をし、頭を下げた。

ところが、一瞬にして、優雅な空気が澱んできた。

頭を下げているため、状況は掴めない、まさか頭を上げた先にで何かあるのか?


「わかった……。今日からビシビシと行くからな。」

突然、ファイリアの口調が変わった。少し声のトーンも低くなったと同時に、不安感が漂う。


「既視感を感じるよな?何故か教えてやろうか?」


「…っ…はい!教えてくださいっ!」

何故か咄嗟に訓練生時代のような気分になった。訓練生時代…そう訓練…。


わたしはハンゾウの元娘だ!血は繋がっているが、母とハンゾウは離婚した!これが血だ!抗えないな!ハハッ!」

そうだ、このデジャヴの正体はこれだった。


「あの男とまではいかないが、私も厳しく行くぞ!リン!」


「はいっ!!!よろしくお願いしゃっす!!」



オーナーは終始呆れた顔をしていた。



「ビシビシ行くと言ったけど、まずは原理を知らないと話にならない…よし、凛!魔術とは何か言ってみろ。」


「はい。えっと…魔法陣を利用した魔法ということは知ってます。それだけです。」


「そうだ。魔術では基本的に簡易魔法陣に魔力を流し、魔法と同じ物をつくるんだ。じゃあ、最初の問題だ。簡易魔法陣はどう用意する?」


魔法陣は基本的に描ければどんな物でも成り立ってしまう。例えば、砂の地面に棒で魔法陣を描くだとか、木を彫っても魔法陣を作れるし、ただ紙に書くだけでも魔法陣となる。

ということは…


「小さいメモ用紙に魔法陣をボールペンで書き込んで、それを何枚も…という感じですかね?」


「大正解!じゃあ第二問!魔力はどうすれば流し込める?」


質問の意図的にそう簡単には魔法陣に魔力を流し込められないのだろう。


そういえば大体魔法使いは杖を持っているな…。杖という媒体を通して魔力を魔法と具現化している。杖には何があるんだ?

どんな杖にもある物といえば…


「魔石…?」


「残念ながら不正解だ。確かに魔法使いが持っている杖には皆、魔石が付いているだろうが、魔石は魔力を魔法に変える機関なんだ。そこでだ。じゃあ自分自身から魔石へ魔力を流すのにどうするのか?と思わないか?」


「思います…!原理的には魔法も魔術も同じはず…なら、どう流すのか…。」


どんどんファイリアとの授業に惚けてしまう。

ファイリアの意識の運ばせ方が上手なのだろうか。


「基本的に魔力は空気中を流れない。空気中に存在する魔素は人間の持つ魔力とは正反対のものであるがために…。だから魔法使いが持っている杖は魔力の流れやすい素材が使われているんだ。なんなら魔石をそのまま持っているだけでも魔法が使える。ただその魔力が流れやすい素材を使う理由は魔石から魔法が生成されるから、という理由なのだよ。」


ファイリアは説明しながら、ポケットに手を入れ、何かを取り出した。


「それはなんですか?」


「これはこの前、リンがタイガとの初対面時にタイガが倒した狼型悪魔獣から摘出した魔石だ。魔獣の多くには額に魔石が埋め込まれてるからな、それを摘出したんだよ。」


そして、ファイリアは魔石を持った手をこちらに向けた。


「試しに魔力を流してみろ。お前に魔法の才能がないことを教えるためにやるんだ。」


そもそも魔力の流し方すら知らない私にどうしろと?


「魔力の扱い方…がわかりません…。」


「そうか、そうだな。わかった、頭の中でイメージしてみろ。魔力の根幹は心臓にある。その魔力を引っ張るように体の中を移動させ、掌から魔石へ流し込むんだ。」


目を瞑ってイメージをすると、魔石からピリと言う音が聞こえ、そのまま魔石は砕け散ってしまった。


「魔術師は基本的に魔力量が多い者がなる職だ。魔力量が多いがために、その操作は至難の業なんだ。今のように魔石は砕ける、簡易魔法陣は基本的に使い切りだ。一瞬で魔力を注ぎ込み、それを攻撃したいところへ投げる、が基礎だ。これさえできれば一丁前に魔術師を名乗れるぞ。」




原理を理解して早速、過酷な訓練が始まってしまった。



魔法陣をひたすら描かされ、魔力をずっと流し込んで、とにかく投げる。


……を繰り返して、あっという間に日は暮れてしまった。



太陽の沈みかけ、訓練場の入り口にオーナーが立っていた。


「たったの1日で上達しまくりじゃないか。早速なんだが、明日はお前とタイガのコンビでの初仕事だ。アッカー軍からリエスタ南の港倉庫に襲撃をするとの予告状が来た。言わなければいい物をとも思ったけど、言われたならばそれは迎え打つしかない。」


「はい!オーナー!」

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