アブサードブレーカー

涼宮ショウジン

第1話 蒼髪の悪魔と出会いと始まり

「3番線に電車が参ります。」

風に髪が靡く。

髪に視界を襲われている間に電車は既に到着していた。


「お待ちしておりました!」

電車の扉の向こうには、大鎌を持った女と、鎧を着た男がいた。

「今日から助手として働かせていただきます。リンと言います!よろしくお願いします!」

私は今日から、大鎌を持ったタイガという、通称『蒼髪の悪魔』の助手として働く。

隣にいる鎧の男は、此処まで来るための護衛、ヒエン、通称『絶壁の殺戮者』だった。


「お前があのクソ野郎の使か。わかった、助手にしてやろう。ただし、私が危険と感じたら殺すからな。」

「わかりました。改めて、よろしくお願いします!」

「ああ、よろしくな。」

ヒエンは不服そうな顔をする。

「こいつは試さなくていいのか?」

「興味はない。」


「俺のことは半殺しにしたくせに…」

ヒエンはボソッと文句を言った。


「タイガ様、現在リエスタの商業施設で悪魔獣が暴れています!早急に向かいましょう。」

「現場まではどのくらいなんだ?」

「走れば5分もかからないくらいの場所です!」

聞くとすぐに、蒼髪の悪魔は追いつけない程のスピードで走り行く。


「あいつ、場所わかってんのか?」

私はヒエンと共に呆れた顔で立ち尽くした。

「タイガ様は魔力察知能力に長けていると聞きました。あの方ならきっと1分もしないで着きますよ。」


少し程の沈黙が流れ、会話はまた始まる。

「ヒエン様はこの後どうされるのですか?」

「俺か?俺は、ここから3駅離れたとこにデカめのサウナ施設が出来たらしいからそこへ行く予定だ。」

「あ…そこ、先日従業員の対応が悪すぎるってSNSで話題になっていましたよ。衛生環境も悪いとかも聞きました。」

「ええ…、じゃどうしっ…。」


ホームの屋根が崩れると同時に、蒼髪の悪魔が倒すはずの悪魔獣、狼型の魔獣が着地した。

驚いているのも束の間、同じ穴から蒼髪の悪魔が飛び降りてそのまま大鎌で首を吹っ飛ばした。


「悪魔獣の影響で電車の運行を一時的に停止します。」

ホーム内のスピーカーから警報音と共に声が聞こえた。


「任務完了。じゃあ、助手、事務所へ帰るぞ。」

「おい、タイガ。流石に雑すぎるんじゃないか?これじゃあ再生士の金も高くつくぞ。」


再生士とは悪魔獣との戦いの中で倒壊してしまった建物などを魔法を使って治す仕事である。


「その金を出すのは私じゃない。事務所が全部出すんだから、どうしたって私の自由だろ?」


ヒエンは黙り込む。

私は何も言い出せずに、事務所に行くことになった。



「ただいま戻りました…。」

「私の助手だろ?もっと元気よく喋れ!そうこんな感じに…。」

そう言うと、蒼髪の悪魔は息を大きく吸った。



「帰ったぞお前ら!」



階段からドタドタと足音が聞こえ、数人の男たちが降りてきた。


「タイガさんっ!今会議中です!シーっですよ!」

「あ、まじ?すまねぇな。」



「おい…うるせえなこの野郎…。」

気がつく間もなく、私たち3人の後ろに巨大な漢がいた。


「ショウ…ごめんごめん、許して?」


ショウというのはこの事務所のオーナーであり、タイガの実の兄で、こんな私を雇ってくれた方だ。


「許すかよ馬鹿野郎!!」

オーナーはタイガに大きな拳骨を喰らわす。


「痛い〜。」

全然平気そうな顔で棒読みでタイガは言うが、絶対に私のような一般人が喰らったら気絶どころじゃ済まないだろう。



「ショウくん、と…これはこれはお久しぶりです。ホウサカリンくん。」

振り向くと、そこには訓練生時代の教官だったハンゾウ先生がいた。


「ハンゾウ先生!お久しぶりです!」


「ホウサカくんも元気で何より。卒業して今は…もしかしてここの事務員やっているのかな?」

「いえ…今は資格を獲得してタイガ様の助手をやらせていただいています。ちょうど今日から仕事が始まりました。」


「なんと偶然だね。もっと話したいところだけど、時間も時間だから終わりかな。ショウくんも今日はありがとう。なにかあったらまた呼んでね。いつでも待ってるよ。」

その言葉を言って、瞬きをした瞬間、ハンゾウ先生は消えた。


訓練生時代、ハンゾウ先生はとても怖いイメージがあったが、今話してみて、やはりいい人であることがわかった。



「タイガ、聞いてくれ。今日の会議ではハンゾウさんと一緒にタイガのことについて話していたんだ。頼みたいことがあるんだ。」


「あ?なんだ?」


慎重な面持ちでオーナーは話し始めた。


「今日、ホウサカさんをお前の助手に就かせたのは理由があるんだ。実はアッカー軍が動き始めている。」


「そうか。それで?」

タイガは軽く流すが、アッカー軍というのは恐らくこの国で最も大きな悪魔軍である。


「アッガー軍はこの国を手中に収めようとしている。タイガにはホウサカくんと一緒にこれを食い止めて欲しいんだ。」



「何故……、特別何か強い力など持っていない私を…タイガ様の助手にしたのですか……?」


「君は魔術の才能が多くありすぎるんだ。訓練生時代も魔術は一切触ってこなかったのだろうが、そこらの魔術師とは比にならない魔力量を持っているんだ。タイガも出会った時に気づいたはずだ。ヒエンも薄々わかっていただろ?」


実際、私はずっと武術を教えられてきた。万が一の時の生存能力や戦場での生き残り方も教えられてきた。

が…、魔術、魔法関係は一ミリも教えて貰わなかったし、その存在に触れることすらあまりなかった。


今まで黙っていたヒエンがやっと口を開く。

「俺はまるで魔力察知ができないが、それでもわかるんだ。うっすらと、お前の周りに魔力の塊の龍のような物が渦巻いて見えるんだ。」


「だから…。俺はこの事務所のオーナーとして2人に頼む……。どうかアッカー軍を食い止めてくれ!」



「なんだ、そんなことか…。やってやろうじゃないか!」

蒼髪の悪魔はやる気の満ちた目で言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る