15.緊急クエスト:キャンパーを排除せよ
依頼の話を済ませたのち、相楽さんのお兄さんについてのマシンガントークを聞いていると、いつの間にかダンジョンセンターの前に到着していた。
「今更だけど、ここまで着いてくる必要なかったのに」
「いいえ。せめてお見送りだけでも」
律儀だなあ、なんて内心で好感度を上げつつ自動ドアをくぐると何やら普段より騒がしい。
「……? なんだろ」
どうやら職員さんたちが固まって何やら話し合っているようだ。
会議室などを使わないあたり、かなり切羽詰まっているのかも。
とりあえず受付だけでも済ませたいんだけどな……と手持無沙汰に突っ立っていると、私をいつも担当してくれるプリン頭の職員さんがちょいちょいと手招きしてきた。
「えっと、どうしたんですか?」
私が声をかけると他の職員さんがバッとこちらを見る。
『御影さんだ』『御影さんが来てくれたぞ』『御影さんなら報酬出せばやってくれそうだ』なんてひそひそと話し合って……なんだなんだ、陰キャは注目を浴びると死んでしまうんですよ。
「御影さ~ん、ちょっと相談があってぇ。キャンパーってご存知ですかぁ?」
「もしかして……」
後ろにとてとてついて来ていた相楽さんと顔を見合わせ、頷く。
きっと第二層の奴らの事だ。
「第二層の奥に居座ってずーっとキャンプしてる人たちがいてー、彼らから被害を受けたって報告がここ最近殺到してるんですー……。今までもいくつかは確認していたんですけど証拠が少なくて動けなくってぇ……」
「……あ、それなら大丈夫です。ちょうど今から……その、どうにかしに行くところだったので」
ぼそぼそと口にすると、職員さんたちがわっと湧く。
ひぃ、いきなり大声を出されるとびっくりする……。
「ほんとですかぁ! すでにクエストは張っていますのでぇ、あとで『Guild』で確認して受注してくださいねー」
その後いつものダンジョン入場受付を済ませた後、言われた通りにスマホでGuildを開く。
クエストのタブを見ると、一番上に真っ赤なクエストがピン止めされていた。
内容は『第二層最奥部のキャンパーたちを立ち退きさせること』。殺害以外では手段は問わない……か。
できれば話し合いでどうにかしたいなと考えながら受注ボタンを押す。
クエストは基本的にモンスター討伐や魔石の納品といった内容だが、たまにこうした緊急クエストが出ることもある。
その内容のひとつが問題行動を起こした探索者への対応なのだが、報酬の多さに対して受注する人は少ない。
それはひとえに、人間と戦うことに忌避感を覚える人が多いからだ。
一歩間違えれば相手を殺してしまうかもしれない。そうでなくても傷つけることになってしまうだろうし、そのことに何とも思わない人は少数派だ。
私だって思うところが無いわけじゃない。
でも報酬のためなら――家族のためならこれくらいの泥はいくらでも被れる。
(……そうだ、報酬のこと……)
相楽さんからも報酬を貰えるんだったよね。
この場合どうなるんだろう、自分から言うのはちょっといやらしいかな……なんて躊躇っていると、
「御影さん、ご心配には及びません。公式のほうからクエストが発注されようとも問題なくわたくしからの報酬はお支払いさせていただきますので」
「そ、そっか。うん……じゃあお願いね」
ちょっと申し訳ない気もするけど報酬には代えられない。
貰ったお金でいいお肉を買って家族にすき焼きとか食べさせてあげようかな。
いややっぱり報酬は遠慮した方がよかったかなー!?
「私は最低のやつかもしれない……」
とぼとぼゲートブースへと歩く。
まあとにかくやるべきことは変わらない。
気持ちを切り替えて頑張ろう。
「行ってらっしゃいませ。……どうかお気をつけて」
「……うん、頑張ってくるね」
気合い入れていこう。
私はキャンパーたちをどう説得するか頭を悩ませながらゲートをくぐるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます