ダンジョン攻略してただけなのに有名配信者にストーカーされてバズらされそうになってます
草鳥
1.出会った日の事って意外と忘れてたりする
半年前のことだ。
一通りダンジョン探索を終えて、浅い階層に戻って来た時だった。
「うん、魔石もいい感じに集まったし……そろそろ帰ろうかな」
第一層の森の迷宮を歩きつつストレージを確認する。
取得アイテムはもうすぐ容量上限に達する。これ以上ダンジョンに留まっても稼ぎにはならない。
地上に帰還してアイテムを売り払ったら、愛する妹の待つ家へさっさと帰ろう……と考えていた時だった。
ざわり、と首筋に走る嫌な寒気に私は顔を上げる。
「…………ん?」
周囲に注意を向けてあたりを見回していると。
予感を裏付けるように、遠くから悲鳴が響き渡る。
「――――ひぃやあああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
聞こえるやいなや、私は走り出していた。
ダンジョンに少し慣れてきた新米探索者が調子に乗ってずんずん奥に進んだ結果、格上のモンスターに襲われる……というありふれたパターンだろうか。
ここ一帯がダンジョン全体から見て浅い階層とはいえ、始めたてなら絶対に避けるべき区域なのだ。
実際、今までにも何度かそういう場に遭遇した。
そして迷っていては間に合わなくなる可能性が高いこともよく知っていた。
走る、走る。
緑の草原を踏みしめて、木々の間を駆け抜けると――開けた大広間にたどり着く。
「いた……!」
部屋の中央で小柄な少女と大熊のモンスターが対峙している。
腰を抜かして座り込む少女に対し、大熊は鋭い爪をぎらつかせて丸太のような両腕を今にも振り下ろそうとしていた。
腰に差した刀を抜き、地面を蹴って一息に大熊の懐へ。
恐怖と驚愕に歪む女の子の顔を視界の端に捉えつつ――両腕を振り上げたことでガラ空きになった大熊の胴体を横一文字に切り裂いた。
「ガァッ……」
「ひぇえ」
うめき声が重なる。
大熊の鋭い眼が私へと標的を変える。
だけどもう遅い。
私は刀を逆手に持ち替えて、大熊の額へと力任せに突き刺した。
「ア……ガ……」
だらりと大熊の額から血が伝う。
びく、びく、と何度か痙攣して、強靭なモンスターは動かなくなった。
「間に合った……」
毛むくじゃらの腹を蹴って刀を引き抜くと、死体となった大熊は黒い塵となって消える。
ごとり、とソフトボール大の魔石が落ちた。今のモンスターの核だ。
どうしよう。この大きさだとストレージには入らないな……。まあこの子にあげるか。
私は走り出した拍子に脱げたフードを被り直してから、座り込んだままの女の子に目を向ける。
肩ほどまで伸ばした黒髪をハーフアップに纏めた小柄で可愛らしい印象の子だ。
年下かな。胸は私より大きいけど。
ろくな装備も無しにどうしてこんなところに……。
「怪我はない?」
「え? ひゃ、ひゃいっ!」
ものすごく裏返った声だけど元気そうだ。
でも、なんだか顔がすごく赤い。
”ナビ”でステータスを確認しても毒を貰ってるわけじゃなさそうだけど。
……まあ、怖い思いをしたんだもんね。
「良かった。えっと、この辺は危ないからまだ近づいちゃダメだよ。とりあえずすぐに”ナビ”の帰還機能を使ったほうがいいんじゃないかな。やり方わかる?」
そう問うと、女の子はぶんぶんぶんと首が取れんばかりに首肯した。
今のところ周囲にはモンスターの気配は無いし安全に帰れるだろう。
「それじゃあ私はこのへんで――――」
と、踵を返そうとした瞬間。
がしっと脚を掴まれる感覚がした。
振り向くと、黒髪の女の子が縋り付いている。
「あああのっ、あたしヒマリと言いますっ! どうかお名前だけでも教えてください! お礼させてください!」
「えー…………」
やだなぁ知らない子に名前教えるの。
でも向こうから名前知らされたわけだし……。
「後生ですので……!」
その時は魔が差したのか。
泣きべそをかくその子が妹に似ていたからか。
というか知らない人とこれ以上喋るのがわりと無理なので、さっさと名乗って済ませることにした。
「……御影ユウ。お礼はいらない。じゃあね」
端的にそれだけ言って私は彼女の前を去り、そして半年後――――
* * *
「お願い、先っちょだけでいいですから! 先っちょだけ配信に映ってくれるだけでいいですから! そしたらあたしのチャンネル収益全部あげますからーっ!!」
「いや先っちょってなに!?」
その日の選択を心の底から後悔することになるのだった。
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今日中に区切りのいいところまで連続投稿するつもりなので、よければお楽しみください!
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