響花
春嵐
第1話
キョウカは、自分の心の中が好きだった。水を打ったように静かで。何もない。わたしの中には、何も存在しない。
キョウカ。自分の名前も、好きになりたかった。それはできないというか、むずかしい。
誰かに、名を呼ばれる。キョウカ。その名前は、わたしのものではない。わたしの中にその名前はあって。名前を呼んでくる誰かのものでもない。だから、名前を呼ばれたくない。
どうせ言っても理解されないから。とりあえずわらって受け応え。心のなか、静かな水面が、一瞬。波立つ。
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