第9話:お山の頂上に煙突立てて
のりが乾くまで。
ちょうどお昼時。昼食を食べた後、母達とくつろいだり、ゲームをしたり。
「さて、そろそろ乾いたかな?」
「どうなったか、見てみる感じね」
「うんうん」
と、自室に戻り、積み上げた本を退けて、ブツを取り出してみる。
「うはー。ぺったんこだー」
本の重みで平たく潰されたブツ。
しかし。
「あ! 膨らんで来たっ!?」
低反発ウレタン。
押し潰しても、元の形に復帰するのもすぐ。
「おぉ……元に戻った……形状記憶合金?」
「いや、金属、では、無いね……」
妻のトンデモ発言に、苦笑が絶えない、夫・雪人。
ただ、形状記憶素材、と言う意味に於いてはあながち間違いではない。
「で、肝心ののりのノリ具合は?」
…………さらに、苦笑、しながらも、素材に貼り付けた『靴の中敷き』の接着具合を確かめる。
「んー……あぁ……ちょっとムラになってたか……浮いてるところもあるなぁ……でも、だいたいくっついてるから、とりあえずはこれでいいかな」
「ムラムラ?」
「はいはい、夜に、ね?」
「やったー」
「さて……芯が付いて持ちやすくなったし、加工も楽になるかな?」
素材を持ってクッションに座り、ゴミ袋をスウェットにクリップ止めして作業再開。
ちょきちょき。
左右の円柱のような部分の周囲を丸く、少しだけ削るように切り取る。
左手に持った素材をハサミで丸く切り、ある程度切り進んだら素材の方をくるっと回して、均一に切り進める。
左を切ったら、次に右を同じように。
「両方、少しづつやるんだ?」
「うん。両方同じようにカットした方が調整しやすいからね」
「ふむふむ」
右を切ったら、左。
そうやって少しづつ円柱を円錐……山の形に削ってゆく。
アカネは前回の失敗作を手にもにゅもにゅしつつ、雪人の手元を見ながらゴミ袋に入らなかった削りカスをつまんでゴミ袋に投入。
「色付けした後のこのザラザラ感はどうにかしないの?」
「うーん……どうにかしたいとは思うけど、今のところいいアイディアが浮かばなくてね……取り急ぎ、モデルの仕事には直接影響ないから……」
「そこはこだわるポイントじゃない、と……」
今度は、アカネの方が苦笑する番。
徹底的にこだわるかと思えば、妥協するところは妥協する。
ある意味、柔軟と言えるが、できない事には無理に手を出さないと言う事か。
話しながらも、雪人の手は止まらず、どんどんと切り進められ。
円盤が徐々に山の形に整って来るのだが……。
「なんか山の頂上にでっかい煙突が立ってる感じだけど?」
アカネの言う通り、円錐の頂点に、直径が五百円玉程度の大きさの円柱がそびえ立っている。
「ここは後で加工して中心部分だけ細く残すんだよ。その土台になる部分全体を残して、中心部分がわかりやすくしてるの」
「あー……なるほど……そこはこだわって表現するんだ……」
前回の失敗作には付いていなかったパーツ。
逆に最初の失敗作には付いていたパーツ。
山の頂点にちょこん、と、付いた突起。
それを再現するべく、元になる部分を大きめに残して、外形が決まった後に細部加工する。
「む……そろそろいい時間だよ。ちょっと休憩しよ。お母さんたちにも言われたでしょ?」
「ん……あぁ、そうだね……休憩、するか」
ひと段落ついたところで雪人も素材とハサミを置き、ゴミ袋も解除して立ち上がろうと……
「うぉっ!」
「え? ぁあっ!」
立ち上がる途中、よろめいてアカネに掴まろうとしてそのままアカネに抱き着いてしまう
とっさに雪人を抱きとめるアカネ。
「ちょっ! 雪人くんっ!? 夜まで待てないのっ!? わたしは構わないけどっ!?」
夫の急なアクションに驚くアカネ。
「違う違う。ごめんごめん。足がしびれて……」
「なぁんだ……てっきり……」
「だから、それは夜にね、って」
「はいはい」
とかなんとか。
まだまだ制作は終わらず。
つづく。
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