第30話 ゴブ肉ステーキ
超絶天才セナリアスちゃん、本日FからEランクに昇級しました。
国全体ではどうかは分からないけど、辺境伯領においては最短記録らしい。
ふっ、やはり私は天才じゃったか……。みんなも遠慮なく褒め称えてくれていいのよ?
「またツッコミしにくいボケだなぁおい」
「実際、結果だけ見れば凄いよな」
「魔術は文句なしの天才ですけど……」
「これで黙ってさえいれば……」
暁の雷光のみんなも口々に大絶賛してくれた。照れるぜ。
というわけで今日は素敵なステーキパーティーである。大切なお祝いの日だからね、私がこの数日で研究したゴブ肉ステーキをみんなに御馳走してあげようじゃないの!
「昇級のお祝いなのに、自分で料理をするのかよ?」
「そもそも公爵令嬢が料理を作れるのかという疑問がな?」
「ところが意外と料理が上手なんですよ。騎士団でやっていたんですかね?」
「……幻覚魔法で作っているよう見せかけているだけの可能性も」
フェイス君は私を何だと思っているのか。
最近は私への扱いが雑になってきたし、ここは料理の上手なところを見せておねーさんランクを上げることにしましょう!
まず用意するのは(
いやしかし、私の中のスピリッツが『不可食を可能にしてこそ真の美食家!』と叫んでいるので、いずれ挑戦しましょうか。
それはともかく今挑戦するべきはゴブ肉ステーキである。
普通の野生動物だと普段食べているものでニオイが変わってくる。一般的に肉食はクサくなるし、雑食はそこそこ、草食はそれほどでもないと言われている。
ただ、ゴブリンは肉食というか肉食メインの雑食なのにあまりクサくないのよね。これはゴブリンの種族的な特性なのか、あるいは動物とは異なる祖先・異なる進化をしてきたとされる『魔物』であるせいなのか……。それはちょっと分からない。
まぁとにかく、ゴブ肉はあまりクサくない。それだけ覚えていれば十分でしょう。
とはいえニオイがまったくしないというわけではないので、今回使うのは事前に筋を切り、赤ワインに漬けておいた太もも肉、区分するなら内モモだ。
ワインに漬けておくとニオイを消してくれるだけではなく、お肉の水分を保持してくれるので柔らかくなるし、ワインの旨味と甘みも加わるのでやらない手はない。
ワインの中からお肉を取り出したら、肉の表面にオリーブオイルを塗りたくる。ちなみにオリーブオイルとはオリーブ商会が売り出して世界中に広まった植物油である。
その上から岩塩を細かく砕いたものと、胡椒(っぽい謎の種)を振りかける。
そして取り出したるは鉄製の調理器具――フライパン。冒険者だと(荷物を少なくするために)焼き料理でも鍋を使うのであまり持っていないらしい。
真鍮のように輝く薄黄金色。この色から察せられるように、ただのフライパンではない。ドワーフの職人に鍛え上げてもらった
オリハルコンだから焦げ付かず! オリハルコンだから油を敷かなくても大丈夫! オリハルコンだから熱伝導もいい感じで! オリハルコンだから魔法の炎で炙っても融解しない! オリハルコンとは、最高のフライパン材料なのである!
「……やっぱり、オリハルコンの使い方を間違えているよなぁ」
「見つけた本人がどう使おうと勝手だが……」
「普通は武器や防具に使いますよね」
「そもそも普通は手に入れられない」
わたしのオリハルコン・フライパンを口々に褒め称える暁の雷光であった。
さーってさっそく焼き作業である。ちなみにステーキを焼く前に肉を常温に戻すか戻さないかをうかつに口にすると戦争になるので注意するように。
ただ、色々試した結果ゴブ肉は常温で焼いた方が美味しいので、あらかじめ常温に戻したものを使う。
塩胡椒したお肉は15分ほど放置。その間にソースを作る。
お肉を漬けていたワインをフライパンへ。その中に蜂蜜やら醤油(東の果ての国から輸入された調味料)やらを入れて熱しながら混ぜ混ぜ。
ソースを別の器に移し、肉の表面の水分を拭き取ってからフライパンへ。ニンニクを入れて、まずは強火で片面を焼く。肉の表面に脂が浮かんできたところでひっくり返す。あー、いい匂いー。お腹空いてきたー。もはや私一人で全部食べてしまってもいいのでは?
悪魔からの誘惑を断ち切り、お肉をいい感じに焼き終えて。お皿に移してソースをかければ完成! 喰らうがいい! これが私のゴブ肉ステーキだーっ!
「うっわ、うめぇ」
「ゴブリンの肉だけでも美味いのに、調理方法でここまで美味くなるのか……」
「うぅ、おにくおいしい。にんにくおいしい。私エルフなのに……えるふなのに……」
「おかわり」
ふっ、私への好感度がぎゅんぎゅん上がっている音が聞こえるわね。胃袋を掴んでしまえばこっちのものよ。
ちなみにエルフはあまりお肉を食べないし、ニンニクのようなニオイのきつい食べ物も苦手というか忌避しているらしい。しかしこの数日一緒に暮らした結果、ミーシャの調教――じゃなくて、味覚改変は終わっているのだった。
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