第19話 初めての依頼


 素敵すてきなステーキはてきれない。


 じゃなかった。ゴブリン討伐に決定である。肉。


「肉目的でゴブリン討伐を選ぶ人間、初めて見たぜ」


「ゴブリンは美味いが、一日でダメになるからな」


「数が多くて知恵も回りますから、こっちも命がけになりますものね」


「……依頼料も安い」


 世知辛いフェイス君だった。ちなみにゴブリンは弱い場所――つまりは自前で防衛設備や護衛を準備できないような寒村を狙うので、冒険者への依頼料も安くなりがちだ。


 だからこそ今回も参加する冒険者パーティは我らAランクパーティ『暁の雷光』と、もう一つだけ。

 ふふっ、数ある冒険者パーティの中で、上から二番目のAランクはこの辺境にも二つしかいないというのに、採算度外視で寒村を救う決意をするなんて……良い人たちね。


「いや、肉目的だが?」


「肉のためだな」


「セナさんがお肉食べたいと言うから……」


「大赤字」


 寒村を救う決意をするだなんて! 良い人たちであった!


「うっし、じゃあさっそく出発するか」


 ニッツが机の上に辺境伯領の地図を広げる。


「目的の村は馬車で一日ってところだ。途中で野宿して、翌日の朝に村へ到着。村人に詳しい話を聞いてからゴブリン退治と行こう」


「……馬車で一日?」


「おう。近くで助かったな」


「……じゃあ、今日はお肉を食べられないと?」


「お肉じゃなくて、ゴブリンな? あくまでゴブリンを討伐したついでだからな?」


「……こんなにも胃袋とお腹が『お肉!』になっているのに?」


「ま、しょうがないだろ。移動もまた冒険者の仕事だ」


「なんてこったい……」


 力なく両膝を地面につく私であった。


「ん、干し肉あげる」


 しゃがんだフェイス君が干し肉を渡してくれる。


「うぅ、優しい……フェイス君が優しい……しかも美少年……心が満たされる……。でも、お腹は満たされないのよ! 肉欲が! 満たされないのよ!」


「あの『雷光』が肉欲とか叫ぶなよ……」


「憧れが音を立てて崩れそうだな……」


「う~ん、転移魔法で向かうのもありですけど、さすがにパーティ全員は無理ですし……」


 ミーシャの発言に閃いた私である。そう、馬車で一日かかるなら、転移魔法を使えばいいのである!


 ニッツの広げた地図で村の場所を確認。幸いにして知っている・・・・・場所なので問題なし。転移魔法は一度行ったことがある場所か目視できる範囲でしか移動できないからね。


「はーい、じゃあちょっと集まってー。肩と肩が触れあうくらいにー」


 理由を説明しない私に戸惑いつつ、ちゃんと言うことを聞いてくれるニッツたちだった。


 意識を切り替える。

 剣士ではなく、魔術師として。大規模な魔術を使うために呼吸法から変えてしまう。

 大自然と一体に。

 大気中の魔力を呼吸法によって体内に取り込んでいく。


「――我が征く道に迷いなし。我が征く道に憂いなし。地平の果てに夢を見て、今ここに奇跡の御業を再現せん」


「そ、その呪文は、まさか――」


 冷や汗を流したミーシャが声を上げるのとほぼ同時、私は転移魔法・・・・の呪文詠唱を終えた。


「――虎よ、虎よ、ディ・スティ千里を駆け、千里を帰れーナ・メインジ・ジェア


 ぐわん・・・という腹の底がねじれるような感覚と共に……私たちは目的の村へと転移した。







「……おうぇえ、」


「気持ち悪い……」


「そんな、複数人の長距離転移なんて……ありえない……」


「酔った……」


 転移魔法で悪酔いしたのか、地面に手をついてうなだれる『暁の雷光』だった。いやミーシャだけは酔ったというより打ちひしがれたって感じだけど。


「ん~んっ、と」


 自分で発動した転移魔法なので、もちろん私が悪酔いすることはない。背伸びしながら周囲を見渡すと――見慣れた・・・・農村風景。目的地の村に無事到着したようね。


「無事じゃないが……」


 ニッツが弱々しく突っ込んでくるけど、声が小さくて聞こえなかったということにして。突如として現れた私たちを見た村人たちが警戒していたので、私は美少女ちからを最大出力にして笑顔を作ったのだった。


「こんにちは。冒険者パーティ『暁の雷光』です。ゴブリン退治の依頼を受けてやって来ました。村長か責任者の方はいらっしゃいますか?」






※明日から一日一回更新となります。


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