第16話 決着?


「ではさっそく、っと!」


 試しにとばかりに刀で袈裟斬りにする。

 刀なんて武器は見慣れていないだろうに、ギルマスは慌てることなく腕を動かし、ガントレットの曲面を利用して上手い具合に刀身を滑らせた・・・・。予想に反した動きで、刀の切っ先が地面にまで滑り落とされてしまう。


「もらったぜ!」


 地面すれすれにまで落ちた刀の刀身を踏みつけ、ギルマスが私に殴りかかってくる。刀の動きを封じられ、すでに格闘の間合い。普通の剣士であればもう勝負が付いてしまうところだ。


 しかし、残念ながら。私は魔法剣士・・・・なのだ。


「――ぐっ!?」


 容赦なく顔面を殴ろうとしたギルマスの拳が、私の顔直前で止まった。思っていたより手前での衝撃に、ギルマスの顔が苦痛に歪む。


「くそっ! 防御結界か! しかも無詠唱! さすが――」


 丁寧に解説してくれるけど、解説終わりを待つ義理はない。私は刀の柄から手を離し、ギルマスの脇腹に掌底を叩き込んだ。


 ……うっわ、かったい。


 防御結界を使ったわけでも、鎧を着ているわけでもない。ただ単純に鍛え上げられた筋肉と頑強な骨によって攻撃が弾き返された感じだ。掌底したこっちの手が痺れるってどういうことやねん。


 ギルマスは防御結界を殴った右手にダメージを受け、私も同じく右手が痺れている。自然と距離を取った私たちはお互いを口汚く罵りあった。


「お前! 腕試しで防御結界なんて使うなよ!? 卑怯じゃねぇか!」


「女の子の顔面を容赦なく殴ろうとした鬼畜にとやかく言われたくはありません! というかなんですかその筋肉!? まだ手が痺れているんですけど!?」


「はんっ! 魔法にばかり頼っているから鍛え方が足りんのだ! もっと筋肉を付けろ筋肉を!」


「筋トレしすぎて頭の中まで筋肉になったんじゃないですか!?」


「そういうお前は魔法を使いすぎて性格が歪んだんだな!」


 とんでもないセリフを吐き捨てながらギルマスが突撃してきたので、空間収納ストレージから二本目の刀を取り出す。刀は武人の魂だと言われることもあるけれど、私は別に武人じゃないので遠慮なく予備の刀を使わせてもらう。


 本来であれば攻撃範囲リーチが短いガントレット(というか拳)は圧倒的に不利であるはず。だというのにギルマスはこちらの斬撃を完璧に読み切り、ガントレットで受け流し、着実に拳が届く距離にまで詰め寄ってくる。


 丸い盾を使って攻撃を受け流すというのは聞いたことがあるけど、まさかガントレットでやる人間がいるとは! 目の前で白刃が踊っているというのに恐怖心というのがないのかしら!? ちょっと失敗したらザクッと斬られるのに!


 もうあまりの脳筋さに付き合いきれなくなったので、後ろに飛んで距離を取る。


「もーやだぁー! 何このオッサン、めっちゃ怖いんですけどー!」


「オッサンとは失礼だな! まだオッサンと呼ばれるような年齢じゃねぇ!」


「……実年齢は知らないけど、見た目は完全にオッサンでしょう。あと、さっきちょっと加齢臭したし」


「――ぐふぅ!?」


 なんか知らないけど精神的に大ダメージを喰らったらしいギルマスは、その場で両膝をついたのだった。


 筋肉を鍛えても心までは鍛えきれんかったか、未熟者めが……というオチでそろそろ締めにしない? ダメ?



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