第6話 仲間、あるいは戦友


「あー、疲れたー」


 ゴブリン退治も、ケガ人の治療も、単体ならそこまで疲労するものではない。ただ、それが連続となると三倍四倍と疲れる気がするのだ。よく頑張ったぞわたし。


「おう! セナ! お疲れさん!」


「もうすぐ鍋ができるぞ! セナも一緒に食べようじゃないか!」


 ニッツさんとガイルさんが手招きしてくれたので、自然な流れで合流する。私は別に『暁の雷光』のメンバーじゃないんだけどね。まぁ背中合わせで戦った仲なのだから今さらそんなことを気にする人もいないってことでしょう。


 暁の雷光が囲んでいる焚き火に合流すると、先に魔力を使い果たしたので戻ってもらった(というか、半ば強制的に帰した)ミーシャちゃんが謝罪してきた。


「すみませんセナさん。治療は私から頼んだのに、先に戻っちゃって……」


「いいのよ。支援魔法で魔力を消費していたのだから仕方ないわよ」


 焚き火を取り囲んで背中を伸ばしていると、私の右側に座ったミーシャちゃんが水で濡らした布を渡してきてくれた。……ちょっとオジサンっぽいけど、顔を拭いちゃいましょう。


「……お疲れ」


 ちょっと無愛想に、左側に座ったフェイス君が水の入ったコップを渡してくれた。

 左には美少女エルフ。

 右には黒髪美少年。

 ふふ、悪くないわね。労働の疲れが吹き飛びそうよ。


 ……なんだか王都にいるはずの親友たちが『肉欲騎士……』と冷たい目を向けてきた気がするけれど、気のせいに決まっているので気にしないことにする。


「セナ、今日は助かったぜ」


「そうだな。乗り合わせただけのセナにとっては不幸だったかもしれないが」


 ニッツさんもガイルさんも自然に呼び捨てするようになったわね。……ま、いいか。共に戦った私たちはもう戦友みたいなもの。私も遠慮なく呼び捨てさせてもらいましょう。


「ま、いいわよ。これでも意外と楽しかったものね」


「……あぁ、ま、それもそうだな」


「ゴブリン相手は骨が折れたが、『仲間』と一緒に戦うのが楽しくなかったと言えば嘘になるか」


 私もだ。

 騎士なんて陣形を組んでの集団戦がメインだからね。今日みたいに背中を預け合って戦うなんて経験はなかったのだ。


 誰かから命令されて戦うわけでもなく。

 出世のために相手を貶めることもなく。

 ただ、お互いが生き残るため。背中を預けた戦友を生き残らせるために戦う。

 それは、この人生を騎士として生きてきた私にとって新鮮な体験だった。


「……冒険者って、いいわね」


「ははは、いいだろう? 騎士を辞めて冒険者になるか?」


「セナならすぐにAランクになれるだろう」


「……ちょっと、本気で考えさせてもらうわ」


 もう騎士としての出世は望めないし、人生設計も見直し済み。さらに今日は素晴らしすぎる出会いがあったのだから、このまま冒険者になってしまうのもいいかもしれないわね。


「お、ほんとか? なら、うちが予約しておかないとな!」


「セナが来てくれれば今よりもっと難しいダンジョンにも挑めるな!」


 幸いなことに、再就職先も困らなそうだ。


 あー、でも、一応はあっちの騎士団に着任報告をしなきゃいけないのか。あとは辞表を出して、退職金ももらってと……。う~ん色々と面倒くさそうね。




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