第4話 ゴブリン討伐・1
襲撃してきたのはゴブリンの群れだった。こちらが気づいたことを察したのか、奇襲を諦めて挟み撃ちしようとしてくる。
数は100……いや、120はいるかしら? 対するこちらの戦える人間は30ほど。
地形としては大きな道の右手に崖。左手に深い森。左右には逃げにくい状況で、道の前後からゴブリンに挟まれた形。
「あー、小賢しい……。だからゴブリン相手は嫌なのよ」
「お、セナは騎士なのにゴブリンを相手にしたことがあるのか?」
「……まぁね」
騎士は人間との戦争ばかりで、モンスターなどという『汚らわしい』存在の相手は冒険者に押しつける。そんなこの国の現状を、ニッツの発言は端的に表していた。
前と後ろから襲い来るゴブリンの集団。いや、軍勢。
他の護衛たちは後ろにばかり固まっていて、前方にいるのはニッツたち『暁の雷光』と私だけ。
これでは『暁の雷光』が突破されたら他の護衛は後ろから襲撃を受けてしまうのだけど……。誰からも文句が出ないのは、それだけ『暁の雷光』の実力が認められているということかしら?
私の疑問を察したのか、ニッツさんが私の肩を軽く叩いた。
「よし、まだ俺らの実力は見せてないからな。自己紹介がてら見ていてくれ」
白い歯を煌めかせてからニッツさんと暁の雷光が切り込んだ。まずはまだ少年であるはずのフェイス君が先陣を切り、投げナイフと身軽な動きでゴブリンの注意を引く。
あの身のこなし、
子供に戦わせるのは危ないけど、子供だからこその軽い動きだ。
ゴブリンの意識がフェイス君に向かったところで、盾役のガイルさんが敵の左翼から突撃。複数のゴブリンを大盾で押しつぶしつつ、群れの動きを自分に引き付ける。
そして、ガイルさんが十分『
ゴブリンの血と絶叫が降り注ぐ中、
「――支援魔法、行きます!」
ミーシャちゃんの呪文詠唱が終わったらしく、私たちに光の粒子が降り注いだ。――身体が軽くなり、力が湧き出てくるかのような感覚。支援魔法というのはだいたいの場合が『少しだけ戦いやすくなった気がする』程度であるはずなのだけど、ミーシャちゃんのものは効果が確信できるほど強力だった。
見ていてくれ、とは言われたけれど、支援魔法までもらって見学したままというのも気が引ける。
「…………」
冷静に戦況を見極めた私は、子供であるが故に体力が少なく、少し動きが鈍ってきたフェイス君の助太刀に入った。まずは魔力で『糸』を編み、背後に迫っていたゴブリンを絡め取って拘束。目に見えない魔力の糸にゴブリンが戸惑っている隙に距離を詰め、頸動脈を切り裂いた。
そんな私の乱入を、ニッツさんとガイルさんは広い視野できちんと把握したらしい。
「お! フェイス! そんな綺麗なお姉さんに助けてもらえるとは羨ましいじゃねぇか!」
「まったくだ! 俺も苦戦してみせるべきだったな!」
「……うるさい」
「ちょっと男子! 真面目に戦ってください!」
即座にふざけるニッツさんとガイルさん、照れ隠しにツンツンするフェイス君。そんな男子を叱るミーシャちゃんだった。
もちろん、私たちだって遊んでいるわけではない。ニッツさんは大剣をふるって二、三体のゴブリンを一気に叩き伏せているし、ガイルさんも攻撃を引き付けつつ隙を見て反撃している。フェイス君だって動きは鈍ってきたけれどちゃんと投げナイフで一体一体確実に仕留めていた。
まぁつまり、腕前も雰囲気も良いパーティだった。ちょっと騒がしいけどね。
私も負けていられないので再び
そんな私の活躍を見てニッツさんが目を丸くした。
「おいおい! すげぇ切れ味の剣だな!?」
「これは剣じゃなくて、刀よ。東の果てにある島国の民がよく使う武器」
「カタナねぇ。いいなぁ。俺も手に入れられるのか?」
「どこかしらに流れては来るんじゃない? ただ、剣とは扱い方がまるで違うから、一から修行のやり直しになると思うけど」
「あー、そりゃあちょっと勘弁して欲しいぜ」
そんなやり取りをしつつ着実にゴブリンを潰していくと――ゴブリンたちが今までにない動きを見せた。
不用意な突撃を止め、じりじりとこちらを包囲するかのように近づいてくる。
「ちょっと判断が遅いけど、それでも『囲んですり潰す』ことを思いついたのかしら?」
ゴブリンには知性がある――というか小賢しいけれど、襲撃中に作戦を変更してくるのは珍しい。広い視野を持った指揮官みたいな存在がいるのかしら?
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