誕生日

 さつきの誕生日がやってきた。

 一週間ではとてもではないがなにも準備できなくて、英二は仕方なしに、

「悪いけどケーキ買ってきて」

 と言った。さつきは、ホールではない切ったケーキを買ってきた。これでは蝋燭も立てられない。この歳になって歌を歌うわけではないが、誕生日はこれでいいのか。紅茶を淹れるさつきを見ていると、デザートを食べられるので嬉しそうである。

「もっと大きいのでもよかったのに」

 言うと、さつきは笑った。

「二人しかいないし、食べられなくてももったいないかなと思って」

 その通りだった。それから英二はさつきの身の上を思い出していた。

 母一人子一人の生活をしていたのなら、なるほどケーキを丸ごと買うことはなかっただろう。改めて、自分がどれだけ恵まれた環境で育ったかを思い知った。さつきはタマに生クリームをやっている。シロもやってきたので、さつきは皿にクリームを乗っけてやった。

「調べたんですけど、仔猫って免疫がないから三か月くらいまでは母猫といなくちゃいけないそうです」

「タマも手術しないと、また仔猫が生まれるな」

 英二の思いもよらない言葉に、さつきはきょとんとして彼を見つめた。

「猫なんて一年中発情するよ」

 そっか、とさつきは一人で納得している。それから、英二の誕生日の話になった。彼の誕生日はクリスマスイヴだから、なにもしなくていいよと英二は言った。

「そうもいきません」

 相変わらず、仔猫を欲しいという客は現れなかった。従業員募集の貼り紙をした時もそうであったが、<Chatoyancy>の場所は誰かになにかを呼び掛けるのには適していないのかもしれない。

 間もなく梅雨、さつきが<Chatoyancy>に来て一年が経とうとしていた。

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