向日葵 Ⅱ

青雨

証言 1

証言 1 長屋の住人の話


 春代さん? ……ああ、春代さんね。身体が弱くてねえ、いつも身体を苛め抜くようにして働いていたよ。母ひとり子ひとりで、娘が高校に入る頃には一年の半分は臥せっているようだったね。娘はいつも学校から寄り道もしないで帰ってくると、夕食作ったり春代さんの面倒見たりまめだったよ。あのぶんじゃ友達と放課後遊ぶなんてこともなかったね。 成績はよかったみたいだけど、あの暮らしじゃ進学なんてできっこないから、高校卒業して働きに出たよ。お葬式では気丈にも泣かないようにしてて、制服で遺骨持つ手が震えてて、見ちゃいられなかったよ。春代さんも、あの子がひとりで生きていくことを考えたらもうちょっと長生きしてあげればよかったのにねえ。旦那は別れたそうだけど、ろくに養育費も払わなかったっていうじゃないか。あの母子が苦労したのもそのせいさ。別れた夫がいくらでも払ってくれてたら、もう少しまともな生活ができてたろうにねえ。ま、それも運命さね。え? あの子? さてねえ、就職してからあそこを引き払ったから、どこまで行ったかまでは知らないよ。どこかで暮らしてるんじゃないの。

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