第7話 魔王の剣
「魔王、私たちはお前を倒すためにここに来た!」
よくある言葉。
定型文だけで会話をした。
「問答は不要。さぁ、来るが良い」
敵は、魔王。
クエートは勇者として、最後の責務を果たす。
「アリア、結界を!」
開戦の狼煙は上げられた。
クエートは剣を構える。
アリアは宙へと浮かび、その手に持った杖に魔力を込め、
「我が主人、クエートに勝利をもたらせ!『
杖を魔王めがけ、思いっきり振った。
魔力は部屋を塗り潰すように広がり、その場にいた全員を閉じ込める。
これが、彼女の固有魔術。
結界……それは、世界に干渉するタイプにとっての最高到達地点。
世界を塗り替える大技を、彼女は一人で成し遂げていた。
大結界『
ただし、所有者である彼女の許可が降りた者のみ、魔術を使用することが可能となる。
「コレで私に勝つつもりか?」
魔王は不敵な笑みを崩さない。
その手に持った剣を勇者めがけ豪快に振った。
「……ぐっ、一筋縄ではいかないか」
「当たり前だ。これぐらいで敗北するのなら、私は魔王をやっていない」
かん!と甲高い金属音が鳴り響く。
すかさず、背後からマルタのように太い腕が魔王めがけ差し迫った。
「私以外なら、確かに効いたかもな」
ルキアの腕は、半分ほどの大きさしか無い腕に掴まれ、豪快に投げ飛ばされる。
「ぐぉぉぉ!?」
壁に激突し、少しめり込んだ。
「大丈夫か?ルキア」
天井から、蛇を纏った少年が、ぶっ飛ばされた大男に話しかける。
「すまない……ダマ」
彼が比較的軽症で済んだのは、ダマが激突の寸前に、蛇をクッションとして壁との間に挟ませていたからだった。
(動けるとは言っても……右腕は壊死している……どうするべきか)
クエートと魔王は剣を突き合っている。
死を互いにぶつけ合っていた。
アリアは結界の発動に全神経を使っている。
ダマは圧倒的に絶望的に戦闘に向いていない。
(くそ、こんな時にアークが居れば……)
もしもを考えても無駄だと言うことは理解していた。
だが、自身に打つ手がないのも同時に理解してしまっている。
彼の固有魔術は『
「ぐっ!」
思考を加速させているうちに、クエートがルキアの下へとぶっ飛ばされてきた。
剣を地面に突き刺し、受け身を取る。
ぼろぼろになった肩掛けマントが靡き、クエートの直感を刺激していた。
「おい、若いの。お前、良い魔術を使うな」
魔王はクエートへの追撃では無く、大結界の破壊を優先している。
「!」
瞬間移動でもしたのかと勘違いしてしまうスピード。
空へと飛び立ち、アリアの目の前に立つ。
「お前、時代が違ければ、最強を名乗っても良いぞ」
逃れられぬ明確な死が、彼女の前に現れた。
上から目線で、その手にもつ禍々しい剣を思いっきり振る。
「ぐっ!アリア、距離を取れ!」
かん!とどこから現れたのか、クエートは振り下ろされた剣を、自身の剣で受け止めていた。
「勇者。いや、面白い。魔術も使用せず、良く私に追いつける」
千里眼は、未来を映す。
それはクエートのみが変えることのできる可能性の未来。
「だがな、人間は短期間での成長には限界がある」
「!?」
クエートは行っている意味がわからなかったが、千里眼が未来を告げる。
(不味い……!)
瞬きの直後、彼の正面に魔王の姿はなかった。
「ぐぅぅぅぅう!」
振り向けば、アリアの首が強く締められている。
「アリア!」
勢いそのまま、クエートは剣を振り下ろした。
「……は……ッ!」
その一撃は、確かに貫いた。
「だから、言ったのだ」
少女の身体を、無常に突き破る退魔の剣。
彼の剣は、傷をつけた者に死の概念を与える呪いがかかっている。
基本的に死の概念がないと謳われたゴーレムにすら効く呪いを、人間如きが受け止めきれる訳がなかった。
「人間は、成長しないと」
一つ、クエートはミスをしていた。
彼は刹那の未来を見ずに、切り掛かった。
予知できたことだ。ただ、仲間を失いたくないと、焦ってしまった。
「……あ?」
刺し殺した本人が、1番理解できていない。
魔王は骸となった魔術使いを投げ飛ばし、全身全霊のパンチをクエートの腹に打ち込んだ。
「……ッ!」
血をゲロみたいに吐き出し、結界の敗れた壁に激突する。
「ははは!久しぶりに見たぞ、お前のその顔!やはり絶望に染まる瞬間こそ、お前は美しい」
人の皮を被った魔物は、高らかに笑う。
長い漆黒の髪を靡かせ、勝者は満身創痍の勇者に迫る。
「ウェルバー……ごめん。約束、果たせなかった」
亡き友に懺悔をして、クエートは立ち上がった。
ダマはアリアの回収を治療を。
ルキアは二人の護衛を頼み、魔王城からの脱出を計らせた。
「へぇ。お仲間だけでも逃すってか。いやはや、お前一人で私に勝てると思っているのか?私は未だ、魔術を使っていないのだぞ」
ここまでの(ゼスティリアも含む)戦闘で、彼女は一度も魔術を使用していない。
先程までの常人離れした力は、勇者だった頃の力そのものだった。
「関係ない。私も魔術を使うだけだ。覚悟は良いか、魔王……いや、先代勇者ルキウス」
その目に映るは、純粋なる殺意。
勇者としてではない。純粋な、ただ1人の人間としての怒り。
「は、知っていたんだな。ならば、私の固有魔術も知っているだろう」
彼女……先代勇者ルキウスの固有魔術は『
「なら……死ね」
言いながら迫る、死の拳。
彼女はそれを優しく、本気で突き出した。
刹那で躱し、拳は壁を抉る。
「!」
小さなひびは広がり、崩壊を告げた。
『八雲』の効果は結果を何十倍にも誇張させる。
小さなヒビが、モノの数秒で崩壊まで漕ぎ着けさせた。
「はは!さぁ、見せてみろよ!お前の固有魔術を!」
それは、これまで一度も使わなかったモノ。
誰も知らない、最強の魔術。
「──■■■■、■■■」
それが、彼女の敗因。
彼女は根本を見誤っていた。
彼の固有魔術が、例外に含まれていないと。
「ぁあ、クソが。死ぬのか、私は?」
「あぁ、死ぬ。回復しようと私が殺す」
最早、魔王に抵抗の意思は微塵も存在していない。
(ようやく、目的のモノが手に入る)
彼が触れようとしたのは、彼女が持っていた魔王の剣。
「……お前、先輩からのアドバイスだ」
「は?」
「……溺れるな。その力は、万能では無い。巡り巡って運命は、魔王を殺す。それも、因縁が有る者にな」
「……」
崩壊する身体は、残すは頭だけとなった。
「勇者ルキウス。魔王ルキウス。私が、貴女の意思を継ぐ」
「固いなー。まぁ、私はどうでも良いけど」
「さらばだ、魔王。勇者としての私を殺した、最大の敵よ」
意外そうに、彼女は目を見開く。
「……そっか。じゃあ、先輩として言葉を残そう」
「……」
黙って、クエートは耳を澄ました。
一呼吸置いて、最期の言葉を彼女は呟く。
「──因果は、終わっていない」
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