第19話 捨てられないために
結局見つからないまま、今日も一日が終わる。
リンと合流すると、リンは欠伸をしていた。
「疲れたか?」
「疲れたよぉ。みすゞちゃん、こき使ってくれるんだもん」
ちゃん付で呼ぶなんて、何時の間に仲良くなったのやら。俺はそうかよ、と車を呼んだ。
リンは「送ってくれるのぉ?」と喜んでいたが、俺が「
俺が「当たり前だろ」と云うと、リンは分かりやすく狼狽えた。
「どうしよう、傷物のボクなんて愛してもらえない」
――そんなことか。
否、此奴には『そんなこと』じゃないのか。
思いの外早く車が到着する。俺が車に乗ると、リンも少し躊躇いながら車に乗った。
扉が閉まると、車は走り出す。
俺はリンをちらりと見やった。リンは俯いて、怒られることを恐れる子供のように震えていた。
***
「随分かかっているねぇ」
俺は「申し訳ありません」と頭を下げると、リンも同じく頭を下げた。
「リン君、隠し場所は君がかつて居た場所だったねぇ」
「どうして、それを」
そんな時だって、声の調整は完璧だ。鈴の様な声は、何時だって可愛らしく響く。
でも、それが通用する
「部下の事を調べるのは当然だよ。良く知っておかないと、使える時を見逃してしまう。それは、避けるられるはずの損失に繋がるからねぇ」
「君が付いていながら、こんなにも時間がかかるとはね」
「も、申し訳ありません。三日以内には、必ず!」
「三日。……三日ねぇ」
「気づいているかね? 君らがメモリを探している間に『
これ以上時間をかけていたら、孤児院が襲われる。かといって、見つからない地下室をどうやって見つけるのか。
現状、どうしようもない。リンが、孤児院での記憶を思い出してくれたら可能性はある。だが、彼は孤児院のなかをあまり出歩かなかったと云う。
見つけることは出来るだろうか。リンが、何か思い出してくれたら。
報告も終わり、去り際に
「あまり、失望させないでくれたまえ」
リンはそれを聞いて、拳を強く握った。
「—―もっちろんですよぅ! ボクは絶対、
リンは気丈に振舞うが、部屋を出た瞬間、見たことがないくらい焦っていた。
……
昇降機に乗ると、リンは小さく呟いた。
「……早く、
爪を噛んで、歯ぎしりをするリンは、捨てられることを恐れていた。
俺はそれを、見ない振りをする。
リンは一階に降りるなり、俺に尋ねた。
それは鈴虫の様に、耳を澄まさないと聞こえない声だった。
「ボク、要らなくなっちゃうかな」
俺はそれに何も返せない。ようやくひり出して、「さぁな」と答えた。
要らないかどうかは、俺には答えようがない。けれど、
――どうだろう、それが正解かは分からない。
俺達は
それ以上でも、それ以下でも無い。
リンは「そっか」と云って外に踏み出した。
大きな目に月を映して、彼は人形のように笑っていた。
「じゃあ、もっと強くなったら捨てられないよねっ」
夜の街に消えるリンに、俺は「そうじゃねぇだろ」と呟く。
誰かに愛される、そんな身勝手な願いに執着する彼は壊れた絡繰り人形だ。
俺は帽子を深く被り直す。ちょうど、電話が鳴った。
仕事の支援の呼び出しだった。どうせやることなんて無い。
俺は現場に向かう。しかし、道中にまた電話が鳴った。なんと、支援が必要なくなったという。経緯を聞くと、偶然リンが現れて、敵を
俺はため息をついて、「分かった」と来た道を帰る。
「……お前が強いのは、俺が良く知ってるよ」
――それじゃ駄目なのか。
それじゃあ、駄目なのか。
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