お父様の蝶
柳 一葉
お父様の蝶
お父様は私の事を蝶よ花よと可愛がって下さります。よくワンピースや髪飾りを都会に行く際に買ってきてくれます。
買ってきて頂いた髪飾りを付けようと不意に鏡で自分の顔を追って目尻の黒子を見る度に誰かを、そう誰かを思うのです。
お父様もお母様も黒子はないはず。
私の目の色も御二方には似てなく紺瑠璃色をしております。
そう私は成長過程の中思うことが幾分とあります。
ある日私が七つの頃お父様に頂いた袖を広げたら蝶が羽ばたく様な柄をした着物
そして、それをお父様は蝋燭を灯しその前に私を着飾らせるのであります。
私は当時何も考えてはいませんでした
歳を重ねていくと私は十二歳になってもその習慣は無くなっていませんでした。
次の日の夜
十四歳の姉様がその部屋から震えた足で高価な着物を崩して私の元へやってきてこう言いました
「お父様から逃げて もうあの部屋には行ってはダメよ どうか貴女は、、、」
私は分かりませんでした 姉が何を言っているのか
「姉様は何かをしてしまいお父様を怒らせたのでは」
と拙い私はこの考えしか思いつきませんでした。
「何か」何かとは何なのか
今日姉様は私の部屋で寝ることになりました。布団の中に居てもずっと震えている姉様を大事に抱き暖かさへ夢の中へ誘う事が私に出来る精一杯の事でした
明くる朝急に寒くなって起きてみると姉様が隣に居らず心配で奉仕者を呼び家中を掛け巡らせると
姉は庭にある桜の木にぶら下がってました
私は、私はこの時、姉様が昨日涙も流さず伝えてくれた事がこういう形で姉様を迎えてしまったのかと思うとお父様をどう責めようか考えておりました。
姉様は奉仕者により無事に布団の中へ眠る様になり私はやっと一息吐き涙しました
「姉様ごめんなさい 姉様は私が今夜お父様にする事に反対するかもしれませんが私は実行してみせます たった一人で逝かれた姉様さぞ苦しかったでしょう寂しかったでしょう私は 私は」
そう、お父様は婿養子で来られてお母様の実家は厳しい方ばかりで居心地が悪く奉仕者も毛嫌いしずっと煙草を吸っておりました
そのお父様とお母様の間に出来た私たち姉妹
ずっと一緒に遊んで時たまには些細な言い合いをしたあの頃 あの頃が懐かしく感じます。想いに耽りもう夕方です 今夜もまたあの時間があるのでしょうか
蝶の柄の着物に着替えお父様の部屋へ行き
蝋燭に灯される私 今日も変わらず三十分程で自分の部屋に帰れるのかと思いきや
お父様が急に帯を解いて糸も容易く蝶の着物が荒れていき 事が始まりたった今姉様が教えて下さった「意味」が分かり
懐剣をお父様の腹に突き刺し
「私ら姉妹はあんたの子供じゃない 私らは奉仕者の瀬田様とお母様の子だ」
と甲高い屋敷に広がる私の叫び声
そして再び刺し
「嘘だ 嘘だぁ 私が今まで愛でてきた三人の女は皆 蝶では無く蛾だって事か」
「そんな そんな馬鹿な」
お父様であった男がのたうち回って転がってる姿を見て私は失笑した
これで姉様も少しは救われたかな そうだったらいいな
朝方姉様を桜の木から降ろしてくれた際に見た奉仕者の瀬田様は目尻に黒子あり私は恐る恐るお母様に尋ねてみました そしたら
「貴方もこの家の子ね 」「そうよ、貴方の思ってる事は間違いじゃないわ」
「ただ貴方の姉様はね 男なのよ」
「そして貴方も貴方自身がそうって事」も分かってるでしょ」
と最後に仰った そうだった私はそう僕は
お父様の蝶 柳 一葉 @YanagiKazuha
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
底を割る/柳 一葉
★3 エッセイ・ノンフィクション 連載中 2話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます