SS2「シュトルの少女つまみ食い行商道中」
「フリユばあちゃん、おひさー! 元気してた? 儲かってるー?」
シュトルが入口を開けて笑顔を見せるなり、フリユという年配の女性は顔のシワを寄せて面倒そうな顔になる。露骨に呆れた態度。そんなあからさまに歓迎されちゃうと、傷つくなぁ。嘘だけど。
「またあんたかい、シュトル。あたしゃ、あんたがここからいなくなるたび、これで最後になるように祈ってるんだけどねぇ。神さまってのはほんと能無しだよ」
「ひっどい言い草だなぁ。私、一応上客のつもりなんだけど? お金だってちゃんと出してるし、商品を乱暴に扱ったり傷つけたことないでしょー?」
「そんなのは当たり前だろ。商売ってのはそれで成り立ってんだよ。あんたが来るたび、店ん中が色めいてやかましいんだ。今だって……」
呆れたフリユの言葉の途中で、店の奥の方から「あ、やっぱりシュトルお姉ちゃん……!」と声がした。
控え室である扉が開いて、少女たちが嬉しそうな笑みをたたえてシュトルを囲うように駆け寄ってくる。
皆、年端もいかぬ子ばかりだ。一番年上でも十四くらいか。しかしそれでもさすが女の子というか、この前相手をした時よりも可愛くなったり綺麗になっている。
最初の頃は緊張した様子で、初な子ばかりだったのに。自信がついてくれたのなら、上客冥利に尽きる。眼福眼福。シュトルは鼻高々だ。
「シュトルお姉ちゃん、いらっしゃい。私の相手しない? この前よりずっと上手くなったんだよ?」
「シュトルお姉ちゃん、あたしあたし! 久々だし、いいでしょ? いっぱい甘やかしてよー。そういうの好きだもんね?」
「しゅ、シュトルお姉ちゃん……。わ、私も頑張ったから、良かったら選んでほしいな……」
少女たちに囲まれてわいわいと矢継ぎ早に誘われる。花に囲まれ、鳥に歌われているような気分だ。
シュトルは彼女たちの手を優しく撫でてやりながら言う。
「ごめんねー。今日は決めててさ。また今度、いっぱい稼いできてみんなに相手してもらうから。そん時よろしくね。めっっっちゃ、可愛がってあげる」
シュトルが片目を閉じて愛嬌を振りまくと、少女たちはうっとりした表情で瞳を艶めかせる。
頬も上気させて、シュトルしか見えていないというような魅了された眼差し。少女たちのそんな揺らぐ感情を独り占めできているというのが、何よりもたまらない。これに勝る愉悦など、この世にない。シュトルはそう確信している。
「ほらほら、あんたたちはこの後別の客の予約が入ってるだろう。大人しく準備してな。こいつばかり贔屓にしてると思われたら悪評がついちまうって」
フリユに諫められて、少女たちは渋々といった様子で控室に引っ込んでいく。「シュトルお姉ちゃん、さっきの約束、絶対だよー?」と皆名残惜しそうに誘ってくれた。シュトルはどの子にも最後まで微笑み返してやる。こりゃ、稼ぎ甲斐があるなぁ。あの子たちみんな相手いっぺんに相手にするのもいいかもしれない。花畑に飛び込んで一つ一つの花を丁寧に愛でていくのもまた一興。にやにやしてしまう。
でも今日は、別の味わいを欲している気分なのだ。この店でしか味わえないもの。それを堪能したい。心ゆくまで。そのために遠路はるばるここまで胸を躍らせてやってきたのだから。
フリユが呆れた表情でため息をつく。
「……まったく。あんたが来るとすぐガキどもが姦しくなっていけないよ。他のとこでもそんな振る舞いしてるんだろ。いつか刺されるよ。ガキとはいえ女だからねぇ」
「私がめちゃくちゃにした女の子に刺されて死ぬなら、本望でしょ。それよりばあちゃん。私、お客様なんだけど?」
「わかってる。今日は何を求めてこんなとこまで来たんだ」
「まぁたそうやって下手な焦らしするんだから。生ったばかりの、青い果実だよ。最近入荷したんでしょ?」
シュトルがにんまり笑って言うと、フリユは心底げんなりした顔で俯く。カウンターに肘をついた手で額まで押さえている。
「……どっから聞きつけてきたんだい、ほんとあんたって奴は。まだどこにも広めちゃいないってのに」
「行商人の情報網舐めたらいかんよぉ? 裏界隈の話も結構拾えたりするからねぇ。特に私は、その辺りの網結構広げてるから」
「言っとくが、まだ摘んでもいない初ものだよ。青いとはいえ、価値は当然ある。金はあるんだろうね、シュトル」
フリユに疑いの目を向けられて、シュトルは懐から封筒を取り出すと、そのまま彼女の座っているカウンターに放り投げる。
封筒の中身を改めたフリユが、目を見張った。そしてぎろりとシュトルを睨んでくる。
「……あんた、良くない商売に手ェ出したんじゃないだろうね。どうしたんだいこの金は」
「失礼な。この前、良い湧き水がタダでいっぱい手に入ってさぁ。希少品だしめちゃめちゃ売れて儲けたんだよ。その時に護衛してもらった魔法使いの女の子、可愛かったなぁ。相手がいたのが勿体なかった」
──ちょっと多いと思うけど、今後ともよろしく代ってことにしといてよ。悪い商売してる、フリユさん?
わざと綽々とした態度で言うシュトルに、フリユは鼻もちにならないといった様子で舌打ちをした。
「……ったく、とんだ悪食のクソ女だよ。準備させるから、先に部屋に行って待ってな」
「褒めてくれるくらいお気に召したんだ。じゃあよろしくねー」
シュトルは呆れたカウンターのフリユの横を抜けて、店の中に入っていく。案内もなく慣れた様子で、廊下を歩いていく。いくつか扉があるが、今回はVIP待遇の広くて豪華な部屋だ。
ここはとある街の娼館だ。だがただのそれではなく、表立った建物でもなく店看板もない。何も知らない人間なら単なる民家として通り過ぎてしまうような、ひっそりとした場所になっている。
それもそのはずで、フリユが経営しているのは娼婦というには幼すぎる少女のみを揃えた店なのである。
そしてシュトルは、ここの常連だった。
***
「し、失礼、します……っ」
わくわくとシュトルが部屋で待っていると、ノックがした。
ベッドから立ち上がってどうぞ、と促す。遠慮がちに、少女が扉を開けて中に入って来た。
……大当たり。シュトルはゆっくりと怯えさせないように歩み寄って出迎えながら、心の中で密かに呟く。
おどおどとこちらを窺いながら会釈した少女。小柄なので計りにくいが、おそらくは十から十一くらいの齢。上手ければまだ一桁かもしれない。それならそれでいい。さすがに赤子までは網羅していないが、果実は青ければ青いほどその苦さが癖になる。もちろん、熟し始めた果実も。悪食じゃない、美食家なんだ。我が道を往く。
シュトルは屈んで彼女と視線を合わせる。そして安心させるようにフレンドリーに笑いかけた。
「こんばんは。私、シュトルって言うんだ。お客さんじゃなくて、普通に友達みたいに接してくれていいから。君の名前は?」
「あ、えと……ナヴと申します……。よ、よろしくお願いします……」
「よろしくね。そんな堅苦しくしなくていいってば。楽しく過ごそうよ」
シュトルがにっこりと手を差し出すと、ナヴと名乗った少女もぎこちなくだけれど微笑み返してくれて、握手してくれた。……ちっちゃいおてて。だが爪は整えられていて指は少し長め、それにしっとりとしていて感触はすべすべ。こりゃ将来有望。
屈んだのは彼女の警戒を緩ませるという理由もあったが、容姿をしっかり値踏みするためだった。
やや目尻の方が垂れ目気味なのは、気弱そうだけれど小動物的な印象を抱き保護欲をくすぐる。それでいてはっきりとした二重まぶた。ふっくらした頬は血色もよく、愛嬌はたっぷり。首までの短めの髪は猫毛でふわふわしていて柔らかそう。それでいて艶めていて、触り心地は良そうだ。
……うん。フリユのばあちゃん、さすがいい鑑定をしている。これはまさにダイヤの原石。湧き水で儲けた大枚ほとんど叩いた甲斐がある。ここの少女娼館はそういうレベルの高さが売りで、だからこそご贔屓にさせていただかせているのだ。
「じゃあ、とりあえず一緒にお風呂入っちゃおうか。私が綺麗にあげるから。ナヴちゃんはリラックスしててね」
「え、でもそれは私のしなくちゃいけないことじゃ……」
「いいのいいの。ナヴちゃん、研修とかまだしてないからわかんないでしょ? お姉ちゃんが色々教えるから、ちょっとずつ覚えて行けばいいよ。私、妹がいたからそういうの結構慣れてるんだ」
「そ、それじゃあ、よろしく、お願いします……」
まだ緊張はほぐし切れていないみたいだが、こちらの接し方で少しは親しみを持ってもらえたかもしれない。こういう駆け引きが楽しいから、初モノ遊びはやめられない。真っ白で上質な紙に、自分の筆跡を刻んでいくような愉しさがある。ちなみに、妹がいると言ったのは嘘だ。
ナヴは、おそらくまだ店には出ておらず娼館で働く手ほどきも受けていない初モノなのだ。通常はそういう形式は済ませて店に出るものだが、ようするにこの館の裏メニューである。シュトルは一応上客であるからこそ、そういう恩恵に預かれる。あと、旅先で出会った同じ嗜好の金持ちを客として流しているという事情もあった。フリユはあんな態度をとってはいるものの、処遇は大層よくしてくれている。ま、当然か。売り上げに貢献する客は手厚くもてなしてリピートさせろ。商売の基本だ。
ナヴの手を引いて、部屋に備え付けられていた浴室へと入る。浄化の魔石は旅人向けのもので、町などに住んでいる人たちは家に浴室などで体を清めているのが普通だ。魔石は案外コストがある。だからこそ売りやすいのだけれど。
まあここにある浴室は、もちろん体を清めるだけが目的ではない。だから二人以上が入れるように広く設計されている。浴槽もそうだ。丸くて大きい。
「服、脱がすね。はい、ばんざーい」
「ば、ばんざーい……?」
素直に手を上げたナヴのワンピースを、シュトルは頭から脱がして乱れた髪も整えてやる。
(……お。これはなかなか……)
露わになったナヴの体つき。発育は思ったよりもよく、既に胸も下着で覆っていた。ショーツとお揃いで桃色の可愛らしいけれど幼さも強調されたデザイン。
腰のくびれは少なく、体はほんのりと柔らかみを帯び始めていて触れたら心地よさそうだ。それに少女特有のきめ細かな肌。つやつやしている。
膨らみ始めた胸はまだ緩やかな曲線で、これからを想像させてくれる。幼さの中に女としての色香を含み始めた、この年頃独特の淫靡さ。……良い趣味してるぜ、フリユばあちゃん。私の趣味どんぴしゃ。
……たまらない。シュトルは欲の籠った視線を悟られないように目を細めて笑顔を装った。
「全部脱がしちゃうね。私も脱いじゃうから。お湯に浸かる前に、体だけ綺麗にしちゃおう」
シュトルは自分の服も下着も手早く脱いで畳み、髪をゴムで後ろに結える。そしてナヴの下着も慣れ手つきで上下外すと、そのままタオルの傍にある籠の中に纏めた。
「ナヴちゃんは何もしなくていいからね。私が全部したいだけだから。遠慮しないで」
「はい……」
浴槽にお湯はもう張ってあった。客が来ると自動で注がれる魔石の仕組みらしい。
シャワーを出して、温度が適切なのを確認するとナヴの体に手の方から掛けていく。「熱かったら手を上げてね」と伝えつつ、体も濡らしていった。されるがままでそわそわしている彼女が可愛い。本当に初めてなのだ。なら、いっぱい教えてあげないと。
「じゃあ、軽く洗っていくねー」
そっとお湯を掛けて、ナヴの体を濡らしていく。
さてこれからどうしてあげようか。とりあえずここで、もう始めちゃおうか。それからベッドで、思いきり初ものである彼女を楽しむ。
シュトルは舌なめずりを心の中でしつつ、備え付けのソープを手の中で泡立てて、「泡、付けてくねー」と親し気な態度で指をいやらしくくゆらせた。
***
「ラッセン、私決めたよ。めっちゃお金貯めまくって、私だけの女の子ハーレム作っちゃう!」
シュトルは相棒である馬車を引く馬、ラッセンに向かって高らかに宣言した。
ラッセンを預けていた馬小屋に迎えに行って、街を後にした。街道の途中である。あの後、シーツを汚した件とナヴを散々攻めて疲れさせてしまったことでしこたまフリユに叱られたのだった。
とりあえずまた手持ちは心細くなってしまったけれど、大きな目標が出来た。行商人という不安定で危険な商売をやっている以上、モチベーションというのはとても大事だ。
「まずでっかいお屋敷を買ってねぇ、そこに私好みの女の子を買っていっぱい集めるんだ。ある程度成長しちゃったら入れ替えて、永遠の私だけの楽園を作るの。いい夢だと思わない?」
ラッセンは当然ながら返事はしないが、呆れたように鼻息を漏らした。しょっちゅうこういうことを語り掛けているから、慣れた様子だった。
「あー、その感じは実現できないって思ってるでしょ。見てなよー? 私が有言実行できる女だって証明してあげるから。最後まで付き合ってよ、ラッセン!」
白いたてがみを撫でてやりながら、足取り軽くシュトルは次なる商売の場所へ。可愛い初ものと戯れられて、体調もメンタルも絶好調だ。ナヴを最初に招いてあげるのもいいかもしれない。それなら彼女が成長しちゃう前に、叶えちゃわないと。
「やっぱりちっちゃい女の子は最高だぜー! みんな私のもんにするぞ!」
人が周りにいないのをいいことに。シュトルは晴れ渡った青空に拳を突き上げてそう叫んだ。
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