3分20秒小説『96%』

 橋の上で躊躇している。飛び降りる勇気がない。ガイドさんが通訳してくれる「ゼッタイニ安全デス」――と言われても、申し訳ないけど海外の、しかもその、言い方合ってるか分からないけど、発展途上国のバンジージャンプは、怖い。設備装備の安全性が心配過ぎる。

 下を見る。綺麗な川。下にも空があるようだ。あんな美しいものに激突しても、人は死ぬのだろうか?いや死ぬだろう。数十メートル……体感では数百メートル落下するのだ。下が豆腐でも死ぬ自信がある。


「ホントニ心配ナイデスカラ、飛ビマショウ」

「本当に?本当に大丈夫?この金具少し錆びているように見えるんだけど……替えて貰えませんか?」

「彼ニ聞イテミマシタ。コレダケジャナクテ、他ノモ全部ガ錆ビテイル、ダカラ、ノープロブレムダソウデス」

「全然ノープロブレムじゃないよ!ちなみに事故は起こったことないの?」

「オー、ナイナイ!ソレハナイト思イマスガ、一応聞イテミマスネ」

 現地語でごにょごにょ言ってる。そして笑い合ってる。

「ダイジョウブデス。ココノバンジージャンプハ、コノ国デモットモ事故ガヒクイソウデス。ナニシロ成功率ハ、96%モアリマス」

「……96%?」

「yes」

「それってどうなの?」

「”ドウナノ”トハ?」

「低くない?96%……100人飛んだら4人死んでるってことだよね?」

「ダカラサッキ、書類二サインヲモラッタデショ?」

「”ダカラ”の使い方間違ってる。ちょっと、止めておくわ」

「ノー!ノー!セッカクノサイゴノ想イ出ヅクリデスヨ」

「”サイゴ”って何よ!これが最期の想い出になるの?!」

「チガイマス!ツアーノ最終日ッテコトデス」

 また現地語で話し出す。そして大爆笑。

「事故ノ原因ノホトンドハ、金具ノロックガユルカッタカラデス。デモホラ、チャントロックデキテイマス。ダカラ、心配ナイッテ言ッテイマス」

「痛いっ!ちょっと痛いからそれ以上締め付けないで!じゃあ事故の原因は、ロックの確認を怠ったからってこと?」

「ダカラ、ノープロブレムデス」

「”ダカラ”じゃない!ちなみにロックの確認ミスを除いた場合の成功率は何%なの?」

 現地語、爆笑。

「97%です」

「ちょ!1%しか変わってないじゃない?やっぱり止める」

「オカネカエッテコナイヨ」

 現地、爆。

「イノチモカエッテコナイヨ!だから止めます!」

「モッタイナイデス!ワタシノクニノ神ハ、モッタイナイコトヲ禁止シテイマス」

「え?」

「アナタノ国デハ、レジャーデスガ、コノ国デハ、コレハ儀式ナノデス。ヤメルコトハ、神ヘノ冒涜デス!ダカラセ背中ヲ押シマス!バンジー!」

「うそー」

 突き落とされた。死んだ。多分今絶叫している。嗚呼、青に向かって落ちていく。空に吸い込まれていくよう。時間が止まって見える。ボノさんが言った意味が少しだけ分かる。確かに、宗教的な境地に至っちゃいそう。

 もし、今死ぬんだったら、もっと頑張って生きておくべきだった。帰国したら、人生観が変わっているだろうか?変わってない気がするでも、後悔はしたくないって、人生にもっと真剣に向き合おうって、駄目!空にぶつかる!


「大丈夫デシタデショ?」

「”デシタデショ?”じゃない!酷いよ突き落とすなんて」

 現、爆。

「ジョークデスヨ。実際ニハ、事故ナンテ起コッタコトナイデス」

「はー?!」

「ワタシノ国ノジョークデス」

「ジョーク……嫌い……この国のセンス嫌い……96%っていう、絶妙な数字をチョイスするセンス、大嫌い」

「ゴメンナサイ。嫌イニナラナイデクダサイ。イツカキット、イイ思イ出ニナライマスカラ」

「それは無い。96%ないわ!」

 私の言葉が通訳され、現地の人たち皆が笑った。仕方なく、私も笑った。

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