3分30秒小説『”カツカレー大盛り”はスペツナズナイフ』

「牛焼肉弁当の特盛、たれ多め、玉ねぎ多め、ごはん少な目で」

 と、注文してから3秒後――今日こそ言ってやろう。

「あと隅っこに入ってるあのゼリー、要らないです」

 言ってやった。遂に言ってやった。舌が変色しそうなオレンジの塊は要らない。どうせ食べずに捨てるだけだし。

 おばちゃんの顔色が変わった。

「では、こちらへどうぞ」

 手で促された。カウンターの中に来いって?なにこれ?怒らせちゃったの?

「すいません。そんなつもりじゃあ――」

「こちらへお入りください」

 なんだこのおばちゃん!?言い方も事務的でなんか不気味。だけどなんか腹が立ってきた。いいだろう。行ってやるよそっちに!どうする気だ?打つのか?蹴るのか?

 カウンターの脇をすり抜け、中に入ると。

「こちらへ」

 更に奥へ誘導され冷蔵庫の前。

「少々お待ちください」

 と言った後、インカムで。

「新規です。はい、1名です」

 冷蔵庫の扉を開けた。暗い。地下へ下りる階段?

「ご武運を」

「……ご武運?」

 恐っ!引き返そうとしたら、腕を掴まれ。

「お入りください」

 凄い力!?みしり、骨が軋む。

「痛い痛い痛い!分かりましたよ。入りますから放してください」

 仕方なく階段を下りた。扉がある。勝手に開く。

「お待ちしておりました」


 急に明るい?!いや、眩しい。目が慣れるのに30秒。歓声?熱気?ゆっくり瞼を開けると、そこには大きな鳥かごのような、8角形の金網のような――いや、檻のような――。そしてたくさんの人が取り囲むように座って絶叫している。

「どなた様からのご紹介ですか?」

 サングラスをした黒服の男に聞かれた。

「紹介?」

「どなた様から、パスコードを?」

「パスコード?」

「”牛焼肉弁当の特盛、たれ多め、玉ねぎ多め、ごはん少な目で”と言った後に3秒待って”あと隅っこに入ってるあのゼリー、要らないです”それがここ、地下闘技場へ入る為のパスコードです」

「闘技場?」

「挑戦者には、自由に武器を選ぶ権利があります。どれを使われますか?」

 壁に、えげつない刃物や鈍器がびっしり並んでいる。

「……やっぱり”カツカレー大盛り”にしてください」

「分かりました。まさか裏メニューまでご存じとは、ではこちらをお使いください」

 見たことないナイフを渡された。

「スペツナズナイフです。使い方はご存じだと思いますが、一応。柄の突分を押し込むと、高速で刃が飛んでいきます。これとは別に、あと一つご自由に武器をお選びください。ナイフの方は隠し持っていて、何合か切り結んでから、おもむろに撃ち出すと高確率でヒットさせることができます。ご武運を」

 檻の中を見る。何人か分からないが確実に外国人な、色黒で背の高い男が、両手で湾曲した刀をくるくる回している――こちらを見てにやにやしながら。怒鳴ってるが何語か分からない。

 ゼリー?ゼリーを拒否したからこうなってしまったのか?お店の経費も減るしWINWINだと思ったのに、このままではlooserになってしまう。いや、高確率で死体になってしまう!

「すいません。やっぱ"ゼリー有りでいいです"」

「え?キャンセルされるんですか?」

「そうなんですか?そうなるんですか?!じゃあ是非そうしてください」

「ではこちらへ」


 誘導され扉を抜ける「またの挑戦を、心よりお待ちしております」後ろで扉が閉まる音。モップやバケツ?狭い部屋だ。部屋を出る。トイレ?出る。公園?近所の公園。僕は――。

「”カツカレー大盛り”はスペツナズナイフ……」

 と、うわ言のように呟き、ふらふらとコンビニに向かう。今の僕には、光と人が必要だ。

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