ノッポの場合 1989年
霞 芯
第1話 雑色にて
1989年
あれから、イエローキャブは解散となった。
ノッポは、ドラムの立花と新しいバンドを作ったが、月2回のライブが精一杯であった。
ノッポは、まだ南六郷のアパートにいて、さほど変わらない生活を送っていた。
変わった事と言えば、〝パチンコ〟の彼女が、
ビッグシューターからモンローに変わった事である、
主たる収入源は、恥ずかしながら〝パチンコ〟であった。
が、音楽の収入が無かった訳ではなく、レコーディングの〝仮歌〟のシンガーとして、多い時は、15万程収入があった。
ノッポには、彼女がいた。
その娘は、札幌にいて、遠距離恋愛であった。
〝イエローキャブ〟が札幌でライブをした際に、
どちらからともなく、惹かれて付き合う事になった。
その娘は、
ノッポは、美代と暮らしたいという思いもあったが、向こうは、大学、こちらは、ぱちプロまがいの
しがないシンガーであり、進展するには、敷居が高かった。
電話は、していたが、いかんせん札幌。
電話代が7万になった月もあり、美代を呼び寄せる、飛行機代にもことかき、切ない思いをさせていた。
ノッポは、新曲を書く度に、電話越しに美代に聴かせていた。
反応が、薄いと、暫くギターを触りたくない程、
落ち込み、それほどノッポは、美代の音楽センスを頼りにしていた。
そんなノッポに転機が訪れた。
1989年9月
ボーカルが脱退した、〝エクストラ〟というバンドの新ボーカルのオーディションの話しが舞い込んできた。
〝エクストラ〟は、ノッポの得意なファンクではなく、どちらかと言えば、ポップなバンドであった。
ただ、〝エクストラ〟はプロであった。
アルバムも5万枚は売れている〝中堅〟バンドであった。
給料も30万は出るであろう話しであった。
ノッポは、〝美代を呼べる〟真っ先に頭に浮かんだ。
だが、音楽の方向性は、自らのドップリ浸かったファンクとは、ほど遠く、思案していた。
ノッポは、電話で美代にその事を伝えたが、美代はあまりいい感触ではなかった。
そもそも、ノッポには、浮気性の癖があり、美代を悩ませていた。
美代は、そんな,ノッポが信じられなくなり、
別れたいとも考えていた。
だから、という訳ではないが、ノッポのデビューにもさほど興味をしめさなかった。
美代は、「いいんだ?ファンクじゃなくて?」そう言って黙りこんでしまった。
ノッポは、「プロだぞ!肩書きさえあれば、美代の両親にも挨拶できる!一緒に東京で暮らせるぞ!」と熱く語っても、美代はさほどの反応を示さなかった。
〝エクストラ〟オーディション当日
オーディションは、13時からだった。
にもかかわらず、ノッポは11時にパチンコ屋にいた。
美代に言われた〝いいんだ?ファンクじゃなくて?〟
が、頭の中を堂々巡りしていた。
ノッポは、賭けをする事にした。
500円、で当たりを引けるかどうか?
ノッポは、500円玉をサンドにいれ、深呼吸して、ハンドルを握る。
残り30発くらいで、2チャッカーに玉が入る!
〝モンロー〟は服を脱ぎ間を玉がすり抜ける!
すり抜けた玉は、Vゾーンに入り当たり!
ノッポは、「やっぱ!ファンクだな!」
そう言って、オーディションに断りの電話を入れる為に、公衆電話に向かった。
ノッポは、出玉を交換し、美代に逢うために、
羽田空港行きのバスに乗った。
完
ノッポの場合 1989年 霞 芯 @shinichi-23
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