第28話

「……色々、貴方には聞きたい事が山程あるんですが」

「魔女と聞いて物怖じしないか、私をもっと畏れると思っていたぞ?」

「はぐらかさないで下さい……貴方は、なぜ僕達をここに誘い込んだんですか」

「それは私ではない、私が作った最初の意志ある人形【ジェシー】のせいだ」

「少し、昔話をしよう。私がまだ幼かった頃、両親から恐れられたあの日……」

ラヴィアは自分の過去を語り始めた。幼い頃、彼女がどれほどジェシーと深い絆を持っていたか、そしてそれがどのようにして破滅へと繋がったのか。自分の力で愛する存在を作り出したが、その力が自分をも支配してしまった哀しみを。



「私は幼い頃から、他の子供たちとは少し違っていた。私の手には特別な力があり、それを使って人形に命を吹き込むことができた。その時、私にとってその人形――ジェシーは、ただの友達以上の存在だった。彼女は私のすべてであり、私の孤独を埋めてくれる唯一の存在だった」

「でも、両親はそれを理解できなかった。彼らは私の力を恐れ、ジェシーを取り上げてしまった。私は泣き叫び、ジェシーを返してほしいと願った。でも、その願いは聞き入れられることはなかった。彼らは私を閉じ込め、私の力を封じようとしたんだ」

ラヴィアは少しだけため息をついた。


「その夜、私は部屋で泣き続けた。私の友達が、私の唯一の理解者が奪われてしまったことが、何よりも辛かった。でも、突然、ジェシーが部屋に戻ってきた。私はその姿に喜び、彼女を抱きしめようとした。でも、次の瞬間、ジェシーは私を包み込み、私の意識を飲み込んでしまった」

「ジェシーは、私が彼女に与えた命を超えて、自らの意志を持つようになっていた。そして、その意志は私を完全に支配し、私を彼女の器として利用することを決めた。私は彼女の意志の中で、ただの観客となり、自分の身体がどのように動かされるのかを見守るしかなかった」


ラヴィアの話を聞いていたコハルは、彼女の言葉に深い哀しみと恐怖を感じた。彼女の過去は、コハルが想像していた以上に壮絶なものだった。

「それで……今のあなたは、ジェシーに支配されたままなのですか?」

僕は慎重に質問を投げかけた。

ラヴィアは静かにうなずいた。

「そうだ。私は今もジェシーの中に囚われたままだ。この体はわずかな力で意識を映したまで、きっと彼女に見つかればこの体もただの人形に戻るだろう。その時は残念だが……許してくれ」


ラヴィアの喋る言葉遣いは大人びていたが、どこか幼さが残っているような気がした。彼女が魔女などではなく、生身の人間であることがわかる一言だった。

「では、あなたが私たちをここに誘い込んだのも……」

「ああ、ジェシーの意志だ。彼女は強力な存在を手に入れ、その体を人形の元にしようとしている。私からは詳しく分からないが」



ラヴィアは目を閉じ、深いため息をつく。その仕草は完全に人間じみていた。

「質問ばかりですみませんが、どうすれば貴方をいえ、ジェシーを殺せますか?そして……どうすれば貴方を解放できますか?」

「解放か……願ってくれるのはありがたいが、彼女の中にある私の肉体は彼女の中から出れば死んでしまうだろう。力は彼女に奪われて……生かされているだけだからな」


「ジェシーを殺すことは……おそらく、可能だろう」

ラヴィアは、目を開けながらゆっくりと答えた。

「だが、それは容易なことではない。彼女は多数の人形を従え、自己を強化し続けている。お前ともう一人の娘は相応の実力は持ち合わせているのだろうが……」

「でも、貴方は殺してほしいと思ってるんですよね」

その言葉を聞いてラヴィアは少し動きを止める。



「ああ、まあな」

「なら、叶えて見せます。貴方を救ってみせます」

ラヴィアは、微かにため息をついた。そしてその目には、わずかながらの希望とともに、深い哀しみが宿っていた。

「……名前は、何と言う?」

ラヴィアは僕を見据えて尋ねる。



「コハル、ミナミザカ コハルです」

「そうか……コハル、お前は優しいな」

そう言って少し笑いかけるその目には、どこか懐かしさを感じさせるような、哀愁の籠もったものだった。

『コハル様』

ゼラの声が聞こえる。僕はそれに答える。

(どうしたの?)

『一つ提案が、人形の魔女。ラヴィア・アリエルの力を貰いましょう」

はゼラの提案に一瞬戸惑いを覚えたが、すぐに冷静さを取り戻して思考を巡らせた。

(彼女を配下にする……?)

ゼラの提案は一見すると突飛に思えるが、ラヴィアの力を借りることができれば、ジェシーとの戦いにおいて大きなアドバンテージになる可能性がある。

僕はラヴィアを見つめながら、慎重に言葉を選んで問いかけた。



「ラヴィアさん貴方を救うために……僕の配下になって下さい」

「配下に……?どうゆうことだ?話がつかめん」

「あっその、説明を省いちゃいましたね。僕の能力【欲望の瓶の上に腰かける者】リリスは配下にした人の力を自分の力として使えるんです。それで、貴方を配下にできれば、ジェシーと対等に戦えるんじゃないかと思ったんです」

「なるほどな……しかし、私は私の力によってこんな有様だ。お前がならんとは限らん」

「だけど、此処で死ぬよりマシじゃないですか?」

「……ふっ確かにな。よかろう私はコハル、お前の配下だ」



『スキル【命戯縫合】を得ました、加え【魔法効率強化】さらに【魔女】を得ました」

ラヴィアに目を向けると、スッと席を立って僕の元に近寄る。そして軽く微笑みその手を差し出した。

「よろしく頼む」

僕の手にその手が触れる。

「はい、こちらこそ宜しくお願いします」

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