第5話
セイラさんに案内されながら食材を買いに街を歩いていると何やら人だまりを見つける。
「どうした、何か気になるか?」
「あ、いえ、ちょっと人だかりが気になって」
僕が言うと、セイラさんが振り返って人だかりを見つめる。
「ああ、あれは……」
セイラさんがつぶやく。
そこに居るのは高身長の随分体格のいい男性だ。
「あれはこの街の統治者バルトラムじゃ、税を下げ孤児院を作り学校の設立。支持するのもうなずけるくらいの善人じゃな」
「じゃが、儂に言わせればそんな金どこからでとるかって話じゃがな」
そう言ってセイラさんは人だかりの横を通る。
話し声が漏れ聞こえてくる。
「あの、バルトラムさん。応援してます」
「頑張って下さい!」
子供たちがそう言うと、バルトラムさんはその子たちの頭に手をぽんと置き笑顔で言った。
「ああ、もちろんだ」
そうはきはきと笑いながら言った後、孤児院の方へと去っていった。
するとセイラさんは呟く。
「……見繕いおって」
そんなセイラさんのつぶやきが聞こえる。
「そうですか、誠実そうな人ですけど」
「表面だけはな、まあお前さんがそう言うならそうなのかもな」
そうしてセイラさんは再び歩き出す。僕もその後を追いかける。
★
それから買い出しの続きを済ませて、屋敷に戻った。
「お帰りなさい、セイラさん。コハルちゃんもお帰り」
アイシャさんが迎えてくれる。
「ああ、ただいま」
「ただいま戻りました」
そうして買い出しの荷物を片付けていると、奥様が食堂に入ってきた。
「あら、お帰りなさい」
「はい、ただいま戻りました」
奥様にそう返事をする。
「さてと、コハルちゃんちょっとこっちに来てくれる?」
奥様はそう言うと食堂を出た。
「はい」
僕は返事をして、奥様の後を追った。
「あの……なんでしょうか」
「コハルちゃん。こっちにのメイド服に着替えてくれる」
奥様はそう言い、一着のメイド服を渡して来た。
「これは……同じものですか?」
今着ているのと同じもののように見える。
「違うわ、背中側をよく見て」
「えっと……」
背中側を見ると、羽を出せるようになっていった。
「羽と尻尾を出してこそ、サキュバスメイド!」
「は、はあ……」
そう言われて僕は貰った服に着替える。確かに羽と尻尾を出せるけど。
「似合ってるわよ、コハルちゃん」
奥様は僕をじろじろと見つめてそうつぶやく。
「あ、ありがとうございます」
「それじゃあ、戻って頑張ってね」
★
食堂に戻るとセイラさんとアイシャさんが話していた。
「おう、戻ったか」
「はい、奥様から新しいメイド服をもらいました」
背中についた羽をパタパタと動かしながら言う。
「ほう、なかなか似合っておるの」
「うん、可愛いよコハルちゃん」
二人にそう言われ僕は顔を赤らめる。
「あはは」
正直何とも言えないんだけど、喜んでおく。
「んじゃまあ、仕事を再開じゃ」
セイラさんがそう言うと、仕事を再開した。
★
それからはアイシャさんと一緒に仕事をしていた。
奥様の部屋の掃除を終わらせて、次の指示を仰いでいた。
「コハルちゃん、次は……あ、お嬢様のお部屋の掃除を」
「必要ないから」
アイシャさんの言葉を遮り、ソフィア様がそう言った。
「え、でも……」
「それくらい、自分でするから」
「すいません」
アイシャさんが申し訳なさそうに言う。
「謝らなくていい、それと部屋にも入らないでね」
アイシャさんが少し悲しそうにしている中、僕はソフィア様が何か隠しているように見えた。
★
ソフィア様に言われた後、時間が経ち今日の仕事が終わり僕は自室で暇を持て余していた。
『何か、引っかかりますか』
「うん、何か隠しているように見える」
『なるほど』
「まあ、僕が気にする事じゃないのかもしれないけど」
そう考えていると、部屋のドアがノックされる。
「はい」
僕は返事を返しドアを開けると。ソフィア様がそこに立っていた。
「ソフィア様、いかがなされましたか?」
「少し話をしたくて」
凛とした声でそう言われる。
「え、わ、分かりました」
そうしてソフィア様は僕の部屋に入る。
「それで話って」
もしかして解雇とか、正直内心ドキドキしながらそう聞く。
「セイラから私の事を聞いたのでしょう」
「……はい」
「どう思ったの……その話を聞いて」
「えっと、その」
どう思ったか、正直分からない。でも……。
「ソフィア様はとても優しい方だと思います」
「まあ、本心を話せる訳ないわよね」
「え、いや、そうじゃなくて」
「いいのよ、別に。貴方は私を怒らせるような回答は出来ないわけだし」
「それは違いますよ、ソフィア様」
「え?」
「確かに、僕は言葉に詰まって適当な回答をしました。でも話を聞かせられた時確かに思った事があります」
「尊敬の念です。こればかりは見繕った言葉じゃありません」
僕の答えが以外だったのかソフィア様は目を見開いて驚く。
「そう……謝っておくわ、少しひねくれ過ぎたみたいね」
ソフィア様はそう言うと僕に笑顔を向けた。
「貴方は良い人ね、私は正直辞めちゃうんじゃないかって思ってた」
「冷たくしちゃったし、あんな話をきいてたら怖がるのも無理ないって」
「そんな事は」
「そうね、話をしてれば分かるわ」
ソフィア様はそう言ってもう一度笑った。
「僕からも少し良いですか?」
「ええ、良いわよ」
ソフィア様の許可も得たので僕は気になる事を聞く。
「えっと、昨日。その不用意な言葉でお嬢様を……その」
「……え?ああ、その事ね」
「私ね、つい最近まで希代の魔術師なんて呼ばれなかったのよ」
「アイシャを助けたあの日から自分の実力不足を痛感したわ。それで努力したの」
「人の何倍も、自分でそう思ってるだけかもしれないけど。それでも、上がっていく実力が嬉しかったの」
「でも、それを他の人は『天才』の二文字で片付けちゃう。今までそんなこと言われたことも無かったのに」
「私の努力見ていないのに天才天才って言って。私の努力をないがしろにしたの」
「まあ、ただの逆恨みよ。それでも、私は天才なんて言葉で片付けて欲しくなかった」
ソフィア様は少し悲しそうな顔でそう言った。
「それだけ……でも話したら少しスッキリしたかも」
ソフィア様はそう言って僕に笑いかける。
「そうですか……」
「ありがとう、聞いてもらえて」
そう言って扉に歩いて行く。
「じゃあね、お休み」
「はい、お休みなさい」
そうしてソフィア様は部屋から出て行った。
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