TS転生した僕っ子サキュバス。手を差し伸べ続けたらいつの間にか大事に巻き込まれてました。

アイスメーカー

第1話

僕は南坂ミナミザカ小春コハル、自分でも女のような名前だと思うけど、れっきとした男だ。

正直僕の人生の一言で表すなら『外れクジ』というのがしっくりくるだろう。

とにかく僕には運がないと思う。

いや、日常の不運はもはや慣れてしまうくらいには不運だと思う。

でもこれは、不運であって災難ではないと思う。

鳥の糞を落とされたとか、遅刻ギリギリの時に信号が赤になるとか、そういう類いのものだ。



最近会ったもので言うとクジで学級委員長になるとか、居眠り運転のトラックにひかれて死ぬとか、そういう類のものだ。

うん、最後のは不運ではないただの事故だ。





で、今僕はこの随分と機嫌が良さそうな自称女神の前にいる。

「ムフフ、フフようやく私の所にも来ましたよ。良さそうなおも……転生者が」

気のせいだろうか、今おもちゃと言いかけなかっただろうか?

「さあ、早速異世界の事を説明させていただきましょう!」

いや、気のせいではないな。

「あの、僕も質問していいでしょうか」

「あーはいはい、何でしょう」

「何で僕はこんなにも落ち着いているのかなって」

少し前に死んでいるのに、それに加えてこんな状況になっているのに精神は至って平常だ。

「ああ、それに関しては騒がれても面倒ですし。私が神の奇跡をかけました」

いや、神の奇跡って。



「はい、納得しましたか?」

「納得も何も、現に落ち着いているわけですし」

「そうですか。では説明をします」

自称女神は僕の前に分厚い本のようなものを置きページをめくり始めた。

そしてあるページで止めると話を始めた。

「まあ、簡単に言えばナーロッパですよ。剣と魔法の世界です」

まあ、異世界というのだから剣と魔法の世界なのだろう。



「まあ、安心してください。貴方には【博識者】というスキルを与えます」

「この世の情報のほとんどを知りえる、貴方のパートナーです」

「はあ」

僕はまだ一つ気になっていることが残っていた。

「あの、一つだけ聞いてもよろしいでしょうか」

「何ですか?」

「僕の体はどうなりますか?」

そう、それが一番気になっていたことだ。

転生のように別の体なのか同じ体で行くのか。



「あー、そのことですか。うーん」

自称女神は少し考え込むような仕草をした後、口を開いた。

「まあ…着いてからの……お楽しみという事で……」

「ちょっと待て!何その含み、何かあるんですね!絶対何か!」

「さて、それでは張り切って行きましょう!」

自称女神は僕の言葉を完全に無視し、話を進め出した。

そして、いつの間にか足元には魔法陣が描かれていた。

「おい、ちょっと待て!せめて説明を……」

僕の声は最後まで続かずに僕は光に包まれた。





 青い空、中世のような街並み、そして……。

「あのーなんで僕下着姿なんですか……」

 肌のほとんどを露出している……そして明らかに女の子の声、膨らんだ胸。

『それは下着姿ではありません。淫魔、サキュバスの正装です』

無骨な声で僕にそう語りかけてくる。

「うわ!誰?」

『先ほど説明が有られたと思うのですが……私は【博識者】です』

「え、ああうん。なるほど。ちょっと待ってサキュバスってどういう事?」

『女神様からの計らいで貴方はサキュバスに転生しました』

「なるほど……何してくれてんの!」

僕は全力で叫んだ。



『女神様は「TSっ子可愛すぎ!」と言い残し転生させました』

「あのクソアマ!」

どうやら僕はこれからサキュバスとして生きていかなくてはならないらしい。

『一つ質問があります。貴方はどう生きていくおつもりで?」

「え?」

『どういった仕事について、どうやって生活していくおつもりで?』

「あー冒険者はどう?やっぱり定番だし」

女神がナーロッパと言ったのだ冒険者位あるだろう。



『今からすぐはお勧めいたしません』

「え?何で?」

『はっきり言って貴方は弱いです』

『恐らくその辺の魔物にも負けるでしょう』

『そしてもう一つ』



「まだあるの……」

『はい、この世界にはスキルというものがございます』

「うん、確かに言ってたね」

『貴方のスキルはこの私【博識者】を含め三つのスキルを持っています』

「え?」

『一つ目は【上立者】これは両方の合意により、貴方の配下させることができるスキルです』

『二つ目に【欲望の瓶の上に腰リリス掛ける者】貴方の配下の能力をそのまま得られるものです』

「最後は?」

『最後は【女神の加護】……コスプレ衣装しか着られない呪いです』

「え、は?」



最初の二つはまだ良い、いや、良くない理解してないけど。

最後のはなんだ、コスプレ衣装しか着られない?

『はいコスプレ衣装しか着られません、しかもその基準が女神さまの独断なので恐らく鎧などは着られないでしょう』

『これがどうゆう意味かはお分かりですね?』

「いや、まったく」



『はあ……貴方はその格好で暫くを暮らす路銀を稼がなければ成りません』

『ですが冒険者は無理、この世界に頼れる当ても無し。おまけにその格好で淫魔ときて……雇ってくれるところがあると思いますか?』

「え、ああ。え?じゃあ僕どうするの?」

『私もいま考えている所です』

「助けて!博識なんでしょ!」

『うるさいです、少し考える時間を下さい』



【博識者】はそう言うと、静かになってしまった。

それにしてもここは何処なのだろうか……路地裏だって事は分かるけど。

そう言えば、背中に羽がそれと尻尾が生えている。

「ほんとにサキュバスになってる……」

試しに尻尾を動かしてみた。

何となく感覚的に動かせる。

僕はその尻尾で体を撫で回してみた。

「あ、これ気持ちいい……」

「引っ込めるれたりするのかな」

僕は目を閉じ集中すると、尻尾と羽は中に戻っていった。

「なんか変な感じ」



『一つ、思いつきました。取りえずギルドに行きましょう』

「ギルドって事はやっぱり冒険者?」

『違います、そもそもギルドと言うのは自治団体という意味であって、全てのギルドが冒険者ギルドではありません』

「そうなんだ」

『はい、これから行くのは職業紹介事業、まあハローワークみたいな所です』

「……なんか夢が無いね」

『そうですか?』

「いや、うん。まあ、とりあえずそこに行こう」

『はい、では案内します』

僕は【博識者】の案に乗っかり職業紹介所に行く事にした。





「う~ん、君淫魔でしょ。淫魔を受け入れる所なんて無いんじゃないかな……」

職業紹介所の職員は困り顔でそう言った。

「まず、その格好何とかならない?」

そう言えば、僕の服装は簡単に言えば水着のような大事なところしか隠せていない。

つまりこの職員さんからすれば僕の姿はただの痴女だ。

職員さんは僕と目を合わせないようにしているし……。

「……あのーこれしか持ってなくて……」



「ん~あ!一つあるよ!」

職員さんは何かを思い出したかのようにそう言った。

「ほんとですか!」

「ええと、変人の貴族が侍女を一人募集していたよ。家事手伝いね」

「それって大丈夫なんですか?」

「まあ、その貴族は変人だけど悪い噂は無いし……それに君なら……」

「僕なら?」

職員さんは少し悩んだ後、口を開いた。



「……いや、何でもないよ」

「そうですか……」

僕は少し不安になったがこの服装で野宿するわけにもいかないし……。

それにこの職員さんいい人そうだし……。

「あの、それでその仕事受けます!」

「あ、そうなの?じゃあこれ書類ね」

そうして僕はその貴族のお屋敷で働く事になった。

「はあ……心配だ」

職員さんはそう呟いていたが僕には聞こえなかった。



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