第15話組み立てられたパズル
「ギルメリング?」
聞き覚えのない言葉に、ユッカや他の面々は首を傾げた。少し考えてみるが、聞き覚えのない単語である。
「地域によってはパズルリングとも呼んだりします。起源の国や形状が微妙に違ったりしますが、言うなれば知恵の輪ですね」
子供の玩具の名前が出てきたので、戸惑う者が続出する。ユッカもその一人であり、戸惑いのあまり学校の授業のときのように挙手してからアリテに質問をしていた。
「えっと、繋がった輪をバラバラに出来るってことなのか?」
知恵の輪といえば、一見すれば離れないような二つの金属をバラして遊ぶ道具である。それがリングとして再現されているというは、二つの輪が普段は繋がっているということになる。そして、そのパズルを解くと指輪が一つ出来上がるということか。
面倒くさい、とエアテールは言った。
それに対して、アリテは微笑む。
「たしかに面倒くさい白物です。複雑な作りをしていて、指から外すとバラけてしまいます。これは夫や恋人が妻に贈るもので、指の貞操帯と言えるでしょう」
つまりは、浮気防止の品である。
「……それと剣との関係が、どこにあるんだよ」
アナは、アリテの言葉を理解しかねていた。ギメルリングという言葉すら知らないというよりは、それが今の自分の現状には繋がらないだろうと思っているようだった。
アリテは、ユッカに指示をだす。
「アナさんの荷物から、金属片を探してください。いくつかあるとおもうんです」
アナの荷物をひっくり返したのは、ユッカ以外の冒険者たちである。犯人扱いされた恨みは、まだまだ晴れないらしい。テーブルの上でひっくり返された荷物から、アリテはいくつかの金属片を拾い上げる。
アナの表情が変わり、誰もがアリテの言いたかったことを理解した。それと同時に、もう少し分かりやすい例えはなかったのかと呆れてしまう。
複雑な形をした金属片を一つ一つ組み上げて、アリテは見覚えのある形を作り出していく。その光景は、立体のパズルを組み上げているようだった。しばらくすれば、ユッカにも見覚えのある形に組み上がる。
「本当に柄になった……」
ユッカは眼の前には、剣の柄があった。信じられない光景に周囲は沸き立つが、あることにユッカは気がついた。
「いや、刀身は何処だよ!」
出来上がったのは見事な柄だけで、剣に必要不可欠な刀身がない。これでは剣とは言えない。ただの面白い玩具である。
「刀身は最初からなかったのです。店の中では剣を抜かなかったでしょう。剣を持たなければ重さでも分かりませんよ」
「あっ」と誰かが声を上げた。
言われてみれば、そうである。
アナは剣を見せびらかしていたが、抜いてはいない。室内だから抜かないのだと思い込んでいて、不自然には思わなかった。しかし、そもそも刀身がない剣だったのである。
「鞘は、適当に捨てたのでしょう。鞘だけ見つかっても中身が盗まれたと言えますから」
アリテの言葉に、アリはもはや答えることすらしない。
最初からなかったものは見つからない。冒険者たちは、不毛な犯人探しをするだけである。
「そっか……。だから、酒に弱いアリテを利用して、自分を目立たせたのか。そこから、剣のホラ話を始めた。そうしたほうが、俺達の記憶に剣がはっきり残るから」
ユッカは合点が行ったとばかりに、手を叩いた。謎が一つ解ければ、清々しい気分になる。後の事を考えるとちょっとばかり不安にもなるが、今だけはユッカは楽しかった。
けれども、なんだかんだでよく考えた作戦だ。そして、準備物に関しても手が込んでいる。かなり前々から考えて、この騒ぎをアリは起こそうと考えていたらしい。
「それにしても、アリテの酒の弱さを利用するなんて……。命知らずだったな」
酒の入った人間は、気が大きくなるものだ。荒唐無稽な話をする人間だって多くて、ともすればホラ話など聞き流されてしまう。
だからこそ、アナは一度でも人の目を引かなければならなかったのだ。だからこそ、アリテに酒を飲ませたのである。結果として、アイロンが飛んできたわけだが。
「でも、彼の外国の話は本物だと思ったわ」
そう言い出したのは、飯屋の女将であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます