妖徨狐譚《ようこうきたん》
Kon/コン
プロローグ 殻の中で溶ける私と包む温もり
恐怖。
舞う雪が体に積もる。
指先は赤く、突きつける風は冷たい。
でも、それ以上に。
体の芯から凍える寒気。
荒れる息。
暗い。周囲も。感覚も。感情も。
寒い。冷たい。
動けない。体は冷たい。中身がなくなっているような。
ただ、「それ」を見つめる。離せない。怖い。息がうまくできない。
震えている。寒さ何て感じない。ただ、冷たい。
何もできない。このまま。
でも、あの子だけは違った。
あのやわらかい温もり。
体を覆い、体は温かくなっていく。
安心。体の温もりで包まれる。
一瞬だった。
さっきよりもずっと。
怖い。
寒い。
冷たい。
その温もりは、目の前から消えようとしている。
それが何よりも怖かった。
喪失感。
きっと……失ったら……。
私は空っぽになってしまう。
これまで見えていた輝きも。
これまで触れてきた温もりも。
これまで聞こえてきていた音色も。
全て無に感じてしまうだろう。
守られていること。
支えられていること。
愛されていること。
満足しては……。
もっと。
もっと。
もっと。もっと。もっと。
あの幸せを感じて味わいたい。
守るため。
支えるため。
愛すため。
安心して。
守られ。
支えられ。
愛され。
手に触れる雪は溶けてゆく。
形は一瞬で消えていく。
確信した。
この温もりも。
一瞬だ。
触れればもっと。
もっと。
強く握りしめれば。
その分だけ。
溶けてゆく。
そして、消えていく。
涙が出る。
気づけば。
理解すれば。
私を知るほどに。
彼女を感じるほどに。
もう、「それ」への恐怖は去っている。
ただ、私は。
消えてしまう。
強く、強固な温もりも。
簡単に……。
知ってしまった。
私は……。
この温もりを失ってはいけない。
包まれていてはいけない。
包めない。
なら。
消えないよに。
去らないように。
溶けないように。
守り抜く。
自分が……なら……。
私は……ではいけない。
私はもう……。
手を離さない。
目をそらさない。
足を引かない。
崩れない。
一人でも多くを……。
あの子が……負担になるものを少しでも。
私が……保てるように。
受け入れられるょうに……。
あの温もりを温かいと感じれるように。
私は……自分を溶かし、固めた。
より強固に。
より冷たく。
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