仕立てあげられた悪役令嬢は、異国の姫に忠誠を誓う
りょむ
序章 泣きっ面に蜂
複数の足音に追われ、森に入ってから幾分が経っただろうか。お気に入りだったドレスはあちこち破け、泥まみれ。息も絶え絶えで、足も重い。
それでも足音は近づく一方で、一向に止まってくれる気配はない。
私が何をしたと言うの。
本当であれば今日は、今頃は「彼」の隣で……。
「きゃぁ」
大きな根に捕まり盛大に転けてしまった。彼らに追いつかれる。そうそうに立ち上がって逃げなければ。
そう思うのに、足が震えて力が入らない。
「ははっ、やっと追いついた。ちっ、手間取らせやがって」
ナイフをチラつかせた男が数名、にじり寄ってくる。身なりからして恐らく盗賊だろう。
だが、おかしい盗賊と言えど、こんな着の身着のまま追い出された小娘相手にどうしてここまで追いかけて来たのか。
「ここまでご足労頂いて悪いのだけれど、見てわからない?私、今高価なものなど何一つ持っていないわ」
どんな時でも平然と冷静に気高く振る舞え。
父から常々に言われた教えをこんな時でさえも守ってしまう。本当は怖くて、泣き出したくてたまらないのに。
「ああ知ってるとも。だが、生憎俺らの目的は金じゃぁねえんだなぁ、お嬢ちゃん」
ヘラヘラとした態度の裏に隠された鋭い殺気。それに気づいた時にはもう、男のナイフは私目掛けて振り下ろされていた。
死を覚悟して目を瞑ったその瞬間。
ナイフを振り下ろした男が盛大に音を立てて、私の真横に倒れる。男の首には1本の矢が刺さっていた。リーダー格であっただろう男が倒れたことに動揺する彼らを「その矢」は次々と撃ち抜いていく。正確に、文字通り首一点を目掛けて。
「怯える女性一人に、武器を持った男が複数で囲むなど世も末だな。君、怪我はないか」
男達が皆地に伏せると、見慣れない服装の男が私の元に歩み寄る
「あ……、えっと……」
「いや、驚かせてしまったな。私は里旺、君は?」
「アー……セイラ……。その、ありがとうございます、里旺様」
私としたことが。いきなりのことで驚いたとはいえ、お礼を言う前に相手に名乗らせてしまうなんて……。
「そうか、せいらと言うのか」
声が上手く出なかったせいで、正しく名前を聞き取れなかったらしい。訂正しようとも思ったが、先程の盗賊の言葉を思えば、このまま黙っておく方が良いかもしれない
「せいら、行く宛てがないなら私の家にくるか?」
「いえ。そのお気持ちだけ頂いておきます」
「だが、その足で歩けるのか?」
里旺と名乗る男の目線には、痛々しく腫れた私の左足があった。先程までは恐怖で痛みなど感じなかったが、自覚してしまえば歩けないほどの激痛が走る。
「せめて、その足が治るまで私の家に来い」
「……お心遣い、感謝いたします」
助けてもらった恩人とはいえ、婚約者でもない男の家に行くことになるなんて、父が知ったらなんて言うかしら……
いえ、今更もう何も言う言葉なんてないでしょうね。
自国の皇太子に、婚約破棄され追放された出来損ないの娘になんて。
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