9. 究極兵器スライム
「死ねぃ!」
王子はシアンめがけて聖剣をブンと振り下ろす。刹那、黄金の光の刃が放たれ、キラキラと光の微粒子をまき散らしながらシアン目がけて宙を舞った。
ふんっ!
シアンはスルッと身体をよじらせ、間一髪光の刃をやり過ごす。腰のあたりをかすめた刃が黒い毛をパラパラと辺りにまき散らした。
「はっ! どこまで避けられるかな?」
王子はニヤッと笑うとフンッ! フンッ! と、光の刃を乱射してくる。
軽快なステップで刃を避けるシアン。石造りのステージは光の刃で穿たれ傷だらけになっていく。
徐々に前進していったシアンだったが、ニヤッと笑うと一気に王子に向かって距離を詰めていった。
「くふふ、もう見切ったにゃ」
「な、なにをーー! エイッ! エイッ!」
王子なりに工夫して横に斜めに間髪入れずに刃を放っているのだが、まるで先を読まれているかのように難なく避けられてしまうことに焦りが募ってきた。一発でも当てれば勝てるというのにその一発が決まらない。
「な、何だコイツ……。すばしっこい奴だな……」
「くくく……、遅い遅い。それでも王族か?」
シアンは余裕の笑みを浮かべながら、軽やかに舞うように跳びながら王子に迫っていく。
もう後がなくなった王子は叫ぶ。
「な、何をぉぉ!! 喰らえ、
焦った王子は一気に大技で決めに来る。聖剣は今までになく激しい輝きを纏った。
しかし、その大ぶりのアクションをシアンは逃さない。
「隙あり、にゃ!」
聖剣を大きく振りかぶった王子に目にも止まらぬ速さで飛びかかり、伸ばした爪を青色に鋭く輝かせると金属の兜に向けて思いっきり振り下ろした。
カツーーン!
甲高い金属音がスタジアムに響き渡る――――。
グハァ!
虚を突かれた、ものすごい衝撃に王子はうろたえる。
「くっ……まさか効かんとはにゃ……」
甲冑を切り裂くつもりで放った攻撃が弾かれてしまったことに、シアンは意外そうにつぶやく。迷宮ではドラゴンの鱗すら紙のように切り裂いた自慢の爪。それが通用しないのは伝説の防具には未知の力が込められている事であり、シアンは戦略の変更を余儀なくされた。
「ど、どこに行きやがった?」
キョロキョロしながら、兜に開いた細いスリットごしに必死にシアンを探す王子。
「仕方ない、こうするにゃ!」
シアンは助走をつけると、王子の死角からものすごい速度で飛びかかる。ゴスッ! という鈍い音を立てながら兜にドロップキックを決めると、クルクルッと空中で回ってシュタッと着地した。
ぐわっ!
たまらずあおむけに倒れ込む王子。
シアンは王子の上にすかさず青い魔法陣を浮かべると、ニヤッと笑った。直後、何かが魔法陣の底からニュルニュルと出てくる……。
それは水の入ったビニール袋のような不思議な物体で不気味にウニョウニョと動き、ベチョっと王子の兜の上に堕ちた。
「な、何だあれは……?」「ま、魔物……? おい、いいのか……?」
その不気味な展開に会場はざわついた。その物体はなんと、スライムだったのだ。スライムは兜の上でもウニョウニョと元気に動いている。
「ぐわっ! な、なんだ?」
王子は慌てて起き上がったが、スロット越しの視界が歪んでいる。スライムが兜を覆ったままなのだ。
「くっ! 貴様! 何をする!」
王子は慌ててはぎ取ろうとするが、スライムはスロットの隙間からどんどん兜の中へと入ってくる。多くの攻撃を無効にしてしまう伝説の甲冑ではあったが、隙間を入ってくるスライムは想定外だった。
スライムの冷たい粘液が王子の白い頬にペタリと触れる。
「ひぃ! や、やめろぉ!!」
その不気味な侵入に王子は真っ青になって何とかしようとするが、入り込んできたスライムはどんどん兜の内側で膨れ上がってくる。
「う、うごっ……」
やがてスライムは兜の内側を埋め尽くし、王子の息を止めてしまった。
王子は必死にもがき苦しむが、もはやどうしようもない。
シアンは少し離れたところで毛づくろいをしながら時を待った。息を止められた王子にはもう攻撃手段などないのだ。
「お、おい! 早く試合を中止しろ!」「い、いやしかし……」
審判団は揉め始める。試合を止めることは王子の負けを確定させること。そんなことをやろうものなら王族からの報復があるかもしれない。審判たちは早く止めるべきだと分かっていても誰も動けなかった。
やがて王子はぐるりぐるりと力なく回るとバタンと大の字になって倒れてしまう。カラカラと乾いた音を立てながら聖剣がステージの上を転がり、その輝きを失っていった。
「あぁぁぁぁ!」「キャーー!」「ひぃぃぃぃ!」
大観衆はスライムにやられてしまった王子の無様な姿に、絶望したように言葉を失った。
審判が遅ればせながら壇上に上がると大きく腕でバツを作り、試合を終了させる。
「治療班、早く!」
バタバタとスタッフたちがステージに登ってくると王子を担架に乗せ、急いで退場していった。
「シアーン! やったぁ!」
澪は能天気に両手を高く掲げてシアンの健闘を喜ぶ。これで領土も貰えるだろうし、異世界でのスタートとしては上出来なのではないかとにんまりと笑った。
シアンも得意げにドヤ顔で澪の方を見上げた。
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