フルパーティー
マシロ最速便を出してから2日後のこと。
俺が呼びつけた3人がやって来た。
「で? 用って何よ」
村の入り口で、最初に俺を見つけて声をかけてきたのはシスターアズリア。それなりの距離を歩いて来たっていうのに、修道服をまったく汚していないのは流石だな。
「アズリア、お前には貸しがあったよな?」
「うっ……何よ、言いたいことがあるなら早く言いなさい! やれることならやってやるわ」
「そうか、助かる」
「ふんっ」
アズリアは不機嫌顔だが、貸し借りを疎かにしない性格であろうという俺の読みは当たっていたらしい。そもそも、そうでなければここまで来ていないだろう。
「お待たせめいめい。苦労しているみただネ」
「まあな。頼りにさせてもらうぞ」
「任せテ。邪竜教司祭の名は伊達じゃないヨ」
続けてミーアトリア。相変わらずよく目立つ姿格好をしている。黒にピンクとか、目立つ気しかないと思う。
最後に、イゼ。こいつはちょっと面倒だった。
「寝てるのか?」
「そうなんですよー。マシロ、ずっと背負ってきて疲れちゃいました。肩をもんでください! あ、胸は駄目ですよ?」
「誰がもむもんか……」
イゼはマシロの背中で眠っていた。背中を丸くし、気持ちよさそうに寝息を立てている。
イゼはマシロより背が大きのできつかったろうと思ったが、ここまで丸くなっているとあまり問題にはならなかったのかもしれない。
「さて、これでフルメンバーだな。これから作戦会議だ。タイムリミットは近いぞ」
お借りしている族長宅の部屋。
ゴブリン退治は終わったと知ら添えており、その上でやらなければならないことがあるとお願いしたところ、畑仕事を手伝う代わりにと泊めてくれている。混乱を招きかねないのでドラゴンのことは黙っているが、今度しっかりお礼をしようと思う。
イゼはベッドの上で丸くなり、他のみんなもベッドに腰掛ける中、俺は腕を腰に当てて言い放つ。
「さて、マシロからある程度のことは聞いていると思うが、今回お願いしたのは他でもない」
「いや、何も聞いてないけど?」
とか言って小首を傾げるシスターのことはおいておく。
「俺たちはこれからドラゴンを相手することになる。といってもまだ小さなドラゴンだ。種族は恐らくシャドードラゴン。今は、かなり効果が長く続く毒を浴びせているから、活動は緩くなっているはずだ」
「毒って……ドラゴンに毒? どうやって? ドラゴンの肉体は屈強よ? そんじょそこららの毒性なんて簡単に無効化しちゃうはずじゃないの?」
「安心しろ、最高級の毒だよ。ただ、痛いだけで他に効果がない毒だから、そこだけは承知しておいてくれ」
「ドラゴンに毒って……どんだけ値の張る毒薬を買ったの?」
流石に、まだアズリアに俺のギフトを知られるわけにはいかない。知られてしまえば、俺の正体もバレてしまうからな。いい感じに勘違いしてくれているし、このまま進めよう。
「相手がドラゴンってことは分かってもらえたか? これから、ドラゴンを倒すための作戦会議を行う。意見があったら言ってくれ、俺も正解なんて分からない」
「それは良いけど、ドラゴンだったら勇者に任せたいものね。前任勇者は勇者の座を下ろされたって聞くけど、会ったら文句言いたいわね」
「アズリアでも勇者に会えないんですか?」
「呼び捨てって、まあいっか。聖竜教徒じゃないし。……ええ、まあ。残念ながら顔も見たことないわ。私も当時はこっちに就いて間もなかったし、挨拶する暇もなかったのよ。かと思ったら、ドラゴン一体倒してすぐにどっか行っちゃったみたいだし」
「そうなんですね。あ、私の頃はマシロでいいですよ」
「分かったわ、マシロって呼ぶ。にしても、まったく前任勇者にも困ったものよ。ミクア王国の王女直々に勇者の座を下ろさせたらしいけど、何をしたんだか」
「ですねー、はた迷惑です」
うんうん、と頷き合うマシロとアズリア。
少し気不味くなってきた俺。それを可哀そうにと眺めるハトリール。我関せずのミーアトリア。話についていけないのかだんまりのレイアに、寝ているイゼ。
俺の味方はいなかった。ハトリール、助けてくれてもいいんだぞ?
まあ、俺が直接責められているわけではないので助けようもない気はするが。
「……気を取り直して作戦会議だ。つっても、ドラゴンがいるのは洞窟の中。火責め水責め、後は食べ物が無くなるまでひたすら待つ兵糧攻めかだが……3つ目は無しだな。そこまでこっちが耐えきれないだろう」
「それもそうですねー。マシロ、盾無くしちゃいましたし」
「ん? 無くしたのか?」
「はい。ドラゴンから逃げるときに剣と一緒に置いてきちゃいました」
「……じゃあ、お前留守番な」
「なっ!? ど、どうしてですか!?」
「武器持ってない奴を連れて行けるわけないだろ?」
「そ、それはそうかもですけど……マシロだけ置いてけぼりは嫌です!」
「マシロ……」
それもそうか。なんだかんだ言ってマシロは仲間想いだもんな。自分だけ休んでいるなんてできるわけ――
「そうやってマシロだけ除け者にして報酬渡さないつもりなんですね! 荷物持ちだけはするので連れてってください!」
「……まあ、いいけど」
「本当ですか!? 先輩大好きです!」
抱き着いて来ようとしたマシロをひらりと躱し、標的を失ったマシロが壁に頭をぶつけて悶絶するのを見ながら、そういえばこういうやつだったなと溜息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます