ミーアトリアの裏の顔
あれは確か、とある事件を境に俺が自殺を試みた時のことだった。今考えてみれば確かに馬鹿なことだし責められて仕方は無いのだが、あの時のミーアトリアのキレ方は尋常じゃなかった。
「てめぇ何してんんだよ! 苦しいのは知ってるし辛いのも知ってる! でもな、誰が好きでてめぇの従者やってると思ってんだよ能無しが! てめぇが死んだら、1人になっちまうだろうが……ッ!」
俺の服を強く握りながらミーアトリアは涙して言った。口が悪いのは完全に俺の影響だ。育て方が悪すぎた。
姿勢や普段の雰囲気だけは俺に会いに来る騎士たちのそれを真似したせいで、格好と言葉のギャップが酷くなったのは、まあある意味個性と言えるかもしれない。
兎にも角にも、前回ミーアトリアがブチギレた時は俺が死のうとしていたときだった。
その事から考えて、ミーアトリアが怒っている理由を推測するのは簡単なことだった。ようするに、命を粗末にしてるんじゃねぇとブチギレているわけだ。
また、泣いているわけだ。
「何で、そんなに死にたがるんだよ……ッ! てめぇの命だって、大切にしたい人は山ほどいるんだぞ……ッ!」
今度は抱き着いてくることは無かった。ただ、その手に握る《
「少し、甘えてたかもしれないな」
「……今更気付いたかクソ主、死ね」
「分かったから暴言はやめてくれ、心に来る」
「駄目だ、止めない。馬鹿野郎」
段々と、ミーアトリアの声は小さくなっていった。
俺はボロボロになった全身を無理やり立ち上がらせ、ミーアトリアへと近づく。抵抗せずに俯いて泣き続けるミーアトリアの頭を、優しく撫でてやる。
「悪かった、もう無茶はしない」
「誰が信じるか、クソ馬鹿」
「じゃあ信じなくてもいい」
「……信じさせろって言ってんだよ、調子乗んな」
「厳しいことで」
ミーアトリアの豹変に驚いていたマシロとレイアも、その頃になれば驚きの硬直から復活して胸を撫でおろしていた。流石に、普段のおふざけとはわけが違うっい言うのは分かっていたらしいな。
「えっと、先輩その傷大丈夫なんですか?」
「ん? ああ、まあ大丈夫だろ、死にはしない」
「死にそうではあるんですが……」
ミーアトリアの様子が戻ったらしいことを察したマシロが、俺の全身に付いた火傷の心配をしてくれる。あれで人の痛みを分かるやつなので、最悪命に関わりそうな俺の傷を見て見ぬふりはできなかったらしい。
「そ、そうですよ! 一旦帰って、手当しましょう! か、肩いりますか?」
「そんなに重症じゃねぇよ、大丈夫だ、自分で歩ける。……ミーアトリア、手当してきてもいいか?」
「何でてめぇに聞かれなきゃならねぇんだ」
「だってお前、話の最中に勝手にいなくなったら怒るだろ」
「……んなことで怒んねぇよ、馬鹿」
相変わらず口調は厳しいまんまだったが、その顔つきはふてくされている子どものように見えた。引きどころが分からなくなってしまったんだろう。やっぱり、まだまだ子どもだな。
なんて言いつつ、その子どもを本気で怒らせる時点で、俺も大人として大変不甲斐ないわけだが。
この不甲斐なさを克服したいと、もう何年も思っているんだけどな。
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