第5話 仲間とは

愛の鞭

 洞窟の入り口を覆う森の中をボロボロの体で進んで行く。

 流石ドラゴン、遠距離からブレスをちょっと浴びただけで見事に瀕死だ。貧弱な俺の紙装甲ではやっぱり単騎は厳しかったな。すぐに逃げて正解だった。


 来るときは何とも感じなかったのに今は木々の葉や草が肌に触れる度ひりひりと痛む。服は所々焼けているし、肌が出ているところはほとんど火傷の跡が付いている。

 ここまでの傷を負ったのは二年振りか。


 しかし助かった。この状態で襲撃を受けたらまともな対応も出来ないと思っていたので、魔物と遭遇することなく森を抜けられそうなのは不幸中の幸いだ。

 もうすぐそこに最後の茂みが見えている。これを抜ければ草原に出て、そこからさらに少し歩けばすぐに村。しっかし、なんてあいつらに言い訳したものか。まあ、適当に言っておけば丸め込め――


 ガサガサ


「っ!?」


 咄嗟に身構える。姿勢を低くして腰の剣に手を伸ばす。茂みの音、少し右前の方から。クソ、あとちょっとで抜けるってところでこれか。右手は……辛うじて動く程度か。最悪、また毒使いを。

 なんて思っていると音が聞こえたほうから見知った顔が覗くのが見えた。


「ミーアトリア?」


 背の引く茂みを掻き分け、音を立てて立ち上がったのはミーアトリアだった。金髪に木の葉をのっけたその様子を見て、無駄に構えた自分が馬鹿みたいに思えた。


「ったく、驚かせるなよ、ミーアトリ、っ!?」

「ッチ」


 確かな舌打ちと共に振りかざされたのは死の斧デスアクス。どこからともなく取り出したその極大の凶器の一撃を俺は咄嗟に躱す。狭いところではあまりに躱しにくい。

 振りかぶり、斧の重さに僅かによろめいたミーアトリアの脇を通って森を抜ける茂みを抜ける。


「あああああぁぁぁぁぁっ!」


 直後、聞き慣れた悲鳴が聞こえた。

 そちらに目を向ければ俺に目掛けて指を差し大きく口を開くマシロと、そのすぐ後ろに不安そうな表情を浮かべるレイアが見えた。


「先輩見つけた! ミーアトリアちゃん、ここにいま――」

「ふんっ!」


 森の方へ向かって放たれたマシロの声を遮ったのは、茂みから飛び出してきたミーアトリアが叩き付けた斧が地面とぶつかった音。

 あの一撃で終わるわけはないと思っていたから何とか躱せたが、飛び散った土が顔に当たった。


「み、ミーアトリアちゃん!?」

「や、止めてください! なんで攻撃するんですか!?」

「そうだ、止めてくれミーアトリア! 俺が分からないわけじゃないんだろ!?」

「……戯けが」

「っ!」


 突きつけた斧を持ち上げて肩にかけてその場に堂々と佇むミーアトリアの淀む視線の黒に染まるを見るのは、二人で暮らした数年の中で二度目のことだった。


「てめぇみたいなクソ主が、命をものともせず投げ捨てる大馬鹿野郎だってのは知ってんだよ。けどな、そんなクソ主の戯言にはいそうですかって頷けるようなら、今頃てめぇの従者やってねぇんだよッ!」


 咄嗟に躱したことで低い姿勢になっていた俺をミーアトリアは鋭い視線で見下す。

 幼い外見と声。それとはあまりに印象が違う過ぎる言葉に、俺はもちろんマシロとレイアも驚愕する。けれど、俺にそれが二人のそれと違うのは、まず間違いないだろう。


 俺はこのミーアトリアを知っている。

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