高難易度討伐

「ってわけで、グリフォンを倒すことになったどうすんだよおい」

「私に聞かれても困るんだけド」


 ニバールから少し離れた丘を越えながら、俺は自然と愚痴を零していた。


「だって先輩言ったじゃないですか。あんまり攻撃力も防御力も高くない敵がいいって。グリフォンは機動力こそありますが遠距離攻撃はハトちゃんが全部防げるので脅威じゃないですし、防御力はそこら辺のゴブリンと変わらないんですよ?」

「その機動性が1番の問題なんだよ」


 マシロがすべての攻撃を引き受ける前提の下、このパーティーは強いと言われているのだ。それが機動力高めの魔物を相手取るとなるといつ誰が狙われるか分かったものじゃない。


「受けたものは仕方ありません。それに、人目の無い所なら久しぶりに暴れられそうですし」

「いやまあ、ミーアトリアがいいならいいんだが……」

「私は問題ありません。むしろ、飛び回るハエを叩き落とすのが楽しみで仕方ないです」


 顔の大部分はいつも通りなのだが、目だけはとっても輝かせているミーアトリアだった。本当に器用な表情をお持ちなことで。


「っと、めいめい、お出ましみたいだヨ?」

「思ったよりも早いな。気付かれたか」


 グリフォン。鳥のような上半身に獰猛な肉食獣の下半身を持ったその魔物はキメラの1種と言われていて、確か猫と猛禽類のハーフだとか。だったらイゼの親戚かと思っていたのだが、流石に容姿は似ても似つかなかった。


 掴まれたら爪が食い込み、痛いどころでは済まなそうな鋭い両爪に、全長を優に超えるような巨大な翼、そして屈強な肉食獣の肉体を持つ四足獣が空中を駆けていた。


 どうやら標的は俺たちらしい。一気に急降下してきている。


「よーし、打ち合わせ通りに行くぞ」

「打ち合わせなんてしてないんですけど?」

「今からするんだよ。……マシロが犠牲になっているところをハトリールが拘束してミーアトリアがもろとも粉砕、これで行くぞ」

「それマシロ死んじゃってます! 別案をお願いします!」

「じゃあ代案だせよ」

「犠牲者を先輩にしましょう」


 こいつ、真顔でとんでもないこと言いやがったぞ。


「仲間を犠牲にするとか最低だなお前」

「先輩に言われたく、あ! こっち来た!?」


 マシロはまだ鎧が無いので借り物の剣1本だけ携えている。

 グリフォンを視認するとすぐに剣を手に取り、そこに構えて攻撃に備える。


 グリフォンの狙いは端からマシロの腹部だったのだろう。マシロの的確な防御は、勢いよく迫って来た巨大なくちばしを受け止める。


「ハトリール、拘束してくれ!」

「分かってル、《軈て訪れる結末プリソナーオブデススペアー》」

「ミーアトリア、出番だぞ!」

「お任せください、主様」


 ハトリールが漆黒の杖を振るうと濃い紫色の鎖が地中から伸び、グリフォンの四肢及び巨大な羽を拘束した。

 グリフォンは異変に気付いて身を捩るが、既にハトリールの術中にはまったグリフォンに逃げ場は無かった。


 ハトリールは一瞬マシロに目を向け、様子を伺っていたマシロもアイコンタクトをとって小さく頷く。

 グリフォンの暴れている隙を突いてマシロは距離をとり、腰を落として防御姿勢をとった。


 直後、ミーアトリアが飛び上がる。その手に、《死の斧デスアクス》を握って。


「一撃必殺、です」


 ミーアトリアは大斧のシルエットに覆われて黒く染まった金髪を振り乱し、平坦な声音で告げながら大斧を振り下ろした。

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