お風呂タイム

「イゼ、入るぞ?」

「ん、いいにゃ」


 平坦な声で返事をしたイゼの言葉を聞いてから、俺は扉を開いて浴室へと入った。


「いやん、めいにゃんのえっち」

「どこで覚えたそんなこと、ていうかお前から呼んだんだろうが」


 胸元を両手で隠しながら、照れた様子2つなく言ったイゼに突っ込みを入れながらだだっ広い浴槽を見渡した。


「昨日も見たが、やっぱり広いな、ここ。2人で入るのにも全く困らない」

「ん、いいとこ住んでるにゃ」

「で、髪洗えばいいのか?」

「頼むにゃ」

「はいよ」


 何とかハトリールたちを説得し、浴室にやってきたわけだが……どうして俺はこんなことをしているのだろうか。

 ミーアトリアのこともあるから子どもの面倒を見るのには多少覚えがあるが、どら猫の世話は俺の専門外だ。


「というかなんで俺なんだ? ミーアトリアたちじゃ駄目なのか?」

「おみゃーは、にゃーにあれを信用しろというのかにゃ?」

「……別に、そこまで危険な子でもないぞ。喋ってみれば分かるが、普通の女の子だ」

「そう思ってしまっているこそ、奴の危険な証拠にゃ」


 視線1つ寄越すことなく、されるがままになった状態でイゼは続ける。


「にゃーにとって、あれは唯一心から怖いと思える存在にゃ。おみゃーには悪いけど、にゃーが仲良くするのは難しい話にゃ」

「強制はしないさ。ただ、俺と付き合うならどうしたって関係はできるぞ?」

「そのくらいにゃら構わないにゃ。どうせ、どこにいようが危険はやって来るにゃ。だったらむしろおみゃーが近くにいる方が安心にゃ」

「そういうものか」


 イゼとはこれまで何度も話をしてきたが、普段何の脈絡もないことばっかり言ってくる分、真面目な話をしているときはお前誰だよ、って言いたくなる。ただ、その違いが分かりやすく、思わず俺も真剣に話を聞いてしまう。


「ま、イゼはミーアトリアの作ったカレーを食べたわけだから、今更だとは思うけどな」

「……美味しいご飯に罪はにゃいにゃ」

「目を逸らすな顔を動かすな洗い辛い。そもそも後ろ向いてるんだから目はあってないだろ」


 頓珍漢なやつだ。


「それはそうと、最近めいにゃんを付け回してるやつはいいのかにゃ? 今朝もめいにゃんを探し回っていたみたいだったにゃ」

「ああ、やっぱりか。何度か視線を感じたんだよな」

「危ないようにゃら、にゃーのほうで対処するにゃ」


 髪に着いたシャンプーの泡を洗い流してやると、イゼは艶やかに流れる白髪の上で、猫の手を作りながら言う。


「いや、大丈夫だ。あれで敵意は無いみたいだからな。ただ俺へ接触してくる理由は、よく分からないんだよなぁ」

「調べてみるかにゃ? 伝手はあるにゃ」

「ん~、まあそうだな。できるようなら頼む。手出しはするなよ、荒事にはしたくない」

「にゃーをあにゃどって貰ったら困るにゃ。不必要にゃことを確信犯的にやらかすほど馬鹿じゃないにゃ」

「それもそうだな」


 真っ白な柔肌に触れながら、その線の細さに改めて衝撃を受けながら、それでも頼りがいのある白猫を優しく撫でてやる。


「ん、いい感じ……にゃ」

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