廃小屋
廃小屋にたどり着いた俺たちは、まだ使えそうな部屋を見つけてそこで一息ついていた。
恐らくここは客間だった場所だろう。机といすが原型をとどめているのはせめてもの救いだ。
「それで、アイナさんのどこか危険なんですか? 理由も知らずに逃避行に強制連行されるのは流石に納得いきません」
一息ついたところで、マシロがそんなことを聞いて来た。
「まあ、そうだよな。一応話しておくか」
「よろしいのですか?」
「ま、今更だしな」
ミーアトリアは俺の過去のすべてを知っている。ミーアトリアが俺に確認を取ったのは、その過去をマシロに話すことのデメリットを考えてのことだろう。
けどまあ、知られて困るようなことでもないんだよな、本当は。
それに、マシロももう2年以上一緒にやってきた仲間だ。何度も一緒に山場を越えたし、死の狭間を彷徨ったことだってある。
互いに背中を預け合い、信頼し合った仲間だ。
そろそろ、本当のことを話す時が来たのかもしれない。
「あいつ、俺のストーカーっぽいんだよ」
「マジですか」
「そーだったのですねー」
棒読みで応えたミーアトリアの視線が痛い。
「ほら、俺の名前を知ってただろ?」
「はい。それに、握手やらサインやら言ってましたね。追っかけってやつですか?」
「わざわざミクア王国から来たか。いや、今の俺の居場所を知っているわけはないな。たまたま街で見かけたんだろう。これまで街中で視線を感じることがあったが、きっとアイナだったんだ」
「それは怖いですね」
視線を向けて来る相手の心当たりとしてはときたま餌をやってやるどら猫や仕事の担当者、他にも何人か心当たりはあるが、恐らくアイナだ。
「……それはそうと主様、アイナ様の家名について、何か心当たりはございませんか? 私にはどうにも聞き覚えがあってならないのですけれど」
「家名? 何だったか」
「確かニコルスって言ってましたよ。どこかのお貴族様みたいな名前ですね」
なぜか嬉しそうに言うマシロのことを盛大に引っぱたきそうになり、すんでのところで留まった。
「いあったぁっ!? 急に何するんですか!? DVですか家庭内暴力ですか!? 私お金をくれる人は好きですけど暴力する人は嫌いです!」
「ああ悪い、手が滑った」
「思いっきり振りかぶってましたよね!?」
止めたつもりだった右手がマシロの頭を捉えたが、気にしない。
「そもそもマシロが嫌なことを思い出させるから悪いんだ」
「この償いはお金でお願いします現金です! ……嫌なこと?」
「ああ。ニコルスっていえば、ミクアでは名の知れた貴族だ。その家とちょっとしがらみがあってな」
「へぇ、どんなですか?」
こいつが馬鹿でよかった。話題を変えただけで痛みすらも忘れる。
「昔あの家からの依頼を受けたことがあるんだが、ものの見事に失敗してな。それ以来声が1度も掛からなくなってな」
「え、それだけですか? なら別によくくないですか? 先輩って実力はありますけど普通の旅人みたいなものですし……そんなに大失態だったんですか?」
「……あれの、アイナの父親が死んでる。その依頼の中でな。詳しいことは守秘義務があるから言えないが、護衛の依頼だったんだ。アイナはいなかった、その両親だけだ。その旅路で襲撃にあって、助けられたのは母親と数人の使用人だけ」
「な、なるほど。それは大変でしたね」
ああ、まったくその通りだ。
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