アイナ・ニコルス

「改めてハトリールダ、ヨロシク」

「マシロはマシロと言います! ご飯を奢ってくれると嬉しいです!」

「ミーアトリアと申します、以後お見知りおきを」


 お茶を用意してくれたミーアトリアも席に着き、アイナに続いて俺たちも自己紹介をしていた。


「それじゃあ、俺の――」

「ああいえ、結構です」


 自己紹介を……


「え、いじめ?」

「えっ!? ち、違います! すでに存じ上げておりますので、ご紹介は不要という意味です!」

「ああそういう……って、俺のことを知っているのか?」

「当然です!」

「お、おう……」


 ずいっ、と顔を寄せ待ってましたと言わんばかりに声を張ったアイナに、俺は思わず身を引いた。


「メイゲル・シュライン様ですよね!? ずっと前から憧れていました! あの、握手とかサインとかいいですか!?」

「あいあい、オタクが出てるヨ」

「っは!? も、申し訳ありません! 取り乱してしまいました! ……ハトリールさん、あいあいって私のことですか?」

「うん、そうだヨ。可愛いでショ?」

「か、可愛いですけどお猿さんっぽいので止めてください……」

「そう? じゃあどうしようかナ」


 独特のネーミングセンスを発揮するハトリールに困惑するアイナであったが、俺は俺で少し戸惑いっていた。


 そういえば、ミクア王国騎士団って名前が出た時点で気付くべきだったのかもしれない。アイナは、俺のことを知っているのだ。


「おい、マシロ」

「ん? どうしたんですか?」


 あれからずっと俺の手に抱き着いて離れないマシロに耳打ちすると、マシロはこちらを上目遣いで見ながら小首を傾げた。


「逃げるぞ、一緒に来い」

「駆け落ちってやつですか? でもマシロ、先輩をそういう目で見るのは、ちょっと……」

「……別にいいぞ、見捨てるだけ――」

「喜んでついて行きます!」


 小声かつ覇気のある返事という器用な声の出し方を披露してくれたマシロに1つ頷き、ハトリールと自身のあだ名について考えているらしいアイナの目を盗んでその場を脱した。


「ふぅ、何とかバレずに済んだな」

「それは良いんですけど、どうして逃げ出したんですか? 女の子だらけの空間でいてもたってもいられなくなったんですか? 童貞ですか?」

「黙ってろお前も処女だろうが……いや、アイナってやつ、危険だと思ってな」

「危険ですか? 金髪が綺麗で可愛くて、人当たりも良くていい子だと思いますよ? あと、おどおどした感じが昔のマシロを連想させて庇護欲が湧いてきます」

「いやまあ、アイナ自身が危険ってわけじゃないんだけどな」


 あまり、昔の俺を知っている人物とは関わり合いになりたくない。特に、俺の戦い方を知っているような奴とは。


「ふぅん、そうなんですね……それはそうと、これからどこに向かうんですか?」

「まあ、とりあえずボロ小屋改め廃小屋に身を潜めよう。アイナも夜には帰るだろ」

「それもそうですね」

「では、私もお供します」

「うおっ!?」

「わっ!? びっくりした……」


 突然の声に驚いて足を止めた俺たちに、すっ呆けた様子で小首を傾げたのはミーアトリアだった。いつからついて来ていたんだ。


「最初からいましたよ?」

「気配を消すな心を読むな、そんでもって急に声を出すな心臓に悪い」

「ほ、本当にびっくりしました。ミーアトリアちゃんまるで忍者です……ああ、忍者っていうのはこっちでいうアサシンみたいなものです」

「求めてない解説をありがとうな……で、ミーアトリアも一緒に行くのか?」

「主様にお供するのが、従者の務めですので」

「この前真っ先に主をおいて逃げたのはどこのどいつだ」


 あ、目を逸らしやがった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る