散文詩『涙弾』

 悲しみが襲ってきた。ワタシは銃を取り出す――半黄色透明のプラスチック銃。

 悲しみの鉤爪がめりめりと振り上げられた。ワタシは横に飛ぶ、スニーカーがズザーと鳴る、と同時に鉤爪がワタシの残像を八つ裂きにする。

「弾丸!」

 白いゴムキャップを開け、弾倉に涙を落とす。

「……2……3……4」

 悲しみが突進してきた。後ろに飛び下がる。片膝が地面に擦れる。ジーンズに3のダメージ。

「……5……急げ!アイツを倒すには最低でも10滴以上の弾が――」

 悲しみが口を開けた。そこには氷柱のような牙が並んでいる。弾丸は足りない。銃握を掴む手に力が漲る。今しかない!

 黄色い銃口向け、赤い撃鉄起こし、水色の引き鉄を引いた。銃口から涙が、透明なレーザーが飛んで行く、牙の欠片が散る硝子音、加えて重低音で響く叩頭音、それらが不協和音となって鼓膜に残響する。遅れて鯨のような悲しみの断末魔。

 ワタシの涙弾は悲しみの後頭部を貫通して、夏空へ消えて行った。銃口を吹き、ホルスターへ仕舞う。

「悲しみよ。いつでも相手になってやる」

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