散文詩『合金とアルミ』

 透明な箱に緑の文字が張り付けられているそのすぐ横で、僕は千円札を店員に渡しコンビニの喧騒に耳を傾けていたのだが、ふと、透明な箱の中で小山を築いている惨めなジャックポットに視線を取られ、そこに一枚の異質な硬貨を認め息を飲み、鼠のような笑みを口端に浮かべ「誰だこんなところにスロットのメダルをいれたのは?」と辺りを見渡しこそはしなかったが、X氏の後姿を脳裏に描いて、このメダルが――その見たような見ないような絵柄が、このレジに立った衆人、そのうちの何人かの心に、数mm単位ではあろうが、動揺というか嫌悪というか失笑というか兎も角、”心の動き”を与えたことについて、本屋に檸檬を置く妄想を叶えた馬鹿もんがいたものだなぁと、呆れと悔しいが小さな羨望を抱きつ、「見ろよ、こんなにも簡単に日常が化けの皮を剝がされているぜ」と、声高に宣言をしたい衝動、それを王様の耳についての真実に重ね、文字のまま喉の穴に落とし込み、また、このメダルが巡り巡って、もとのパチンコ屋で一撃で大金となった暁に、それがまたこの箱に帰ってくる確率を計算しながら、その間遅延していた時間の流れを、通常再生に戻した途端、右手に渡された1円玉二枚、重ねてつまみ、店員の無表情との中間点に一旦据えてから、透明な箱のスリットに、”あのメダルに重なれ”と念じながら――実際にはメダル目掛けてというわけにはいかない構造の箱だったが、それでもお構いなしに、狙いを定め、2円を投じたわけだが、当然のように、念じた通りにはいかずに、アルミの硬貨は、金属のでもプラスチックのでもない、その丁度中間の、まさに”かちり”という音――それ以外に形容の出来ぬ音、例えこの500倍の価値を有している硬貨でさえも決して発することのできない良き音、を発して、メダルを掠め、その周囲に紛れ、”嗚呼、俺は嫉妬していたのだ”と、このメダルのような文章を、創作物を、僕の脳は拒んでいるつまり、リミッテッドされた価値観が、僕の操縦席にガスのようように充満していて、視界を遮っているという醜態を、この数秒のコマでまざまざと描き尽くされた映像が、防犯カメラにしっかりと収められていることに怯えつつ、店内の冷気の塊と一緒に自動ドアを出て、「むわぁ」と口から漏らした理由それは、外界のこれでもかと言わんばかりの夏の熱気。

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