コーヒー

@hima4200

コーヒー

初めて行った喫茶店

聴き馴染みのない洋楽

背伸びして頼んだブラックコーヒー

今も残るほろ苦い記憶


境内へと誘われる足並みに映える夏着姿

華やぐ祭り囃子の調子と町民たちの歓声

線香花火の煌きに火照される相好

水面に浮かんだ彼方へと馳せる灯籠群


帰り道のバス停

地面を叩く雨音

並ぶビニール傘

心情を映す遣らずの空模様


見送ったあの日

変わらず傍にいると笑顔で云った貴方


去り行く貴方に気の利いた言葉

一つかける事が出来なかったあの日の私

放したくなかった左手に

袂を分つ背中


追いつく事のない過ぎ行く列車

取り残されるプラットフォーム


通った喫茶店から一人眺める夕暮れ

相変わらずほろ苦く香るコーヒー


諦めつつもどこか再会を待ち侘びる日々

徒に過ぎ行く日々

時より流れる風の噂

骸に還り征く蝉と靡く初秋の風

黄金色に色づくイチョウ並木


悴む手に霞む吐息

行手を阻む朔風

氷面鏡に映る虚な表情

重く冷たい足取りを示す街灯

冥色の空に続く銀世界


揃うことのない境内への足並み

目に映る友待つ雪

芽吹く蕾

ひたすら前へ手を引く時の焦燥と

彩を取り戻す季節に燻る高揚

出逢いと別れの狭間に

たゆたう閑散とした部屋

早春の風が強く背中を押す


巡り行く季節に重ねる日々

蝉時雨が軒を連ね

暑さが日々勢いを増す中で

窓辺には屈託のない紺碧の空が高く広がる

時より差し込む陽光が

啜るコーヒーと共に

味わい深く日々の景色を彩る

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