世界への疑問
「ふう……」
部屋から出た後、有希は緊張から解き放たれた反動で思わず息が漏れる。
「おっお疲れ様」
有希が声の方を振り向くと、壁にもたれかかっているフェルミが立っていた。
「なにかあいつに変な事質問されたりした? すごい疲れた顔してるよ」
「はい…… いろいろ質問されたりからかわれたりで……」
「ま、とりあえず帰りましょう。 私たちの家結構ここから離れてるから疲れてるだろうけど我慢してね」
フェルミの後ろを着いていきながら有希はホロウの質問を思い出していた。
「君はこの世界に来る前からこの世界を知っているのだろう?」
咄嗟に知らないと答えたけど、実際のところこれは嘘だ。
私は恐らく、『この世界を知っている』。
とは言っても実はこの世界の人間だとか、この世界を作った張本人だとか、そういった訳では一切ない。
昔、お姉ちゃんと一緒に作った、ゲームの真似事、二人で色んな設定を出し合って一生懸命作った二人だけの理想の世界とこの世界は全く一緒の世界なのだ。
どうしてその世界の中にいるのか、もしホロウの言う通りのここが『人工的に作られた世界』なのだとしたらこの世界はもしかして――
「有希……? やっぱり一回休む……?」
その声に我に返ると何故か私は建物の柱の前に立っていた。
フェルミの表情を見ると何故か心配そうな顔をしながら有希のことを見ている上に、周りの人も数人有希のことを不思議な表情で見ていた。
「えっ……私何かしちゃってましたか……?」
「ずっと柱に向かって歩き続けてたわよ……限界だったら遠慮せずに言って……?」
なんだか口調まで変わって未だに心配そうに見続ける。
「い、いえいえ!全然大丈夫ですからご心配なく!ただ考え事をしてただけですから!」
それから数分ごとに心配されながら歩き続け、夕焼けの赤が目立って来た辺りで居住区エリアへとやってきた。
繁華街に比べてのんびりとした雰囲気で、木とか石とか色んな素材で出来た家が並び、子供達が元気に走っている姿も見える。
「ここが私たちの家よ。 部屋に案内するから着いてきて」
目の前の家は煉瓦造りの洋風な家で、フェルミに案内されて着いた部屋は最低限のベッドと机のみが置かれている殺風景な部屋だった。
「この部屋は好きに使って構わないわ。 これまでいろいろあったししっかり休んでね」
「あ、ありがとうございます!」
「また夕飯の時にでも呼びに来るわね。 それじゃあ改めて。 これからよろしくね、有希」
フェルミはそれだけ言い残して部屋から出ていった。
一人になった有希はぼうっと窓の外を眺めていた。
物の質感、光の反射、木々の匂い――どれもこれも人工的に作られたにしてはリアル過ぎる。
あんなホロウさんの荒唐無稽な言葉をすぐに信用するなんて馬鹿げてるのかもしれない。
でも今までに絶え間なく増え続けた疑問はもし本当なのだといたら一応筋は通る――
「……この世界は、お姉ちゃんが作ったのかな……」
窓ガラスに触れながら呟き、しばらくの間夕日を見続けていた。
その日の夜、ホロウは自室で机をなぞりながら嬉しそうな声色でソファーに座った白衣を着た赤髪の女性に話しかけていた。
「この世界が人工的に作られた物なんてやっぱりなかなか信じられることじゃないよね。 この世界にいるプレイヤーの一体何人が信じるか。 もしこの世界の全てを知り尽くす人が現れたらアリア、君はどうするんだい?」
「むしろそれが私の望みだよ。 私は私が思い描く理想の人間が生まれてくれればそれでいいんだよ。 そのためにホロウに頼んだんじゃないか。 『西園寺 有希のサポート』をね」
「そうだね。 でも僕は君の味方じゃない。 もちろん有希達の方の味方でもね。 僕はあくまで中立、過度に君を助けることもしないし、有希達に必要以上の情報は与えないさ」
「ははは、むしろそっちの方が私にとっては好都合だよ。 ところで有希ちゃんと会ってどう思った!? 常にあわあわしてるとことかとってもキュートじゃない!?」
「キュートかどうかは置いといて、面白そうとは思ったさ。 ま、もうちょっと嘘をつくなら上手くついてくれた方が面白かったけどね」
「そっかそっか、ようやく再開する私の計画! 精一杯みんなで楽しもうじゃないか!」
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