人口の理想郷
目を覚ますと有希はマナにおんぶされていた。
「ふぇっ!?」
思わず変な声を出しながらバランスを崩した有希は起きて早々地面へとダイブした。
「うわっ! 有希ちゃん大丈夫!?」
「うぅ……大丈夫……です…… それよりここって……?」
辺りを見渡すと、大きなデパートのような建物の中に居るようだった。
「ここはカテロリアの中でも一番大きなイクシード商会のお店の中です」
イキシアがそう説明しながら一応回復魔法をかけてくれた。
「今向かってるのはそのイクシード商会の会長、私たちと同じ『プレイヤー』の所よ。 何となくここがデパートっぽいのは多分それが理由ね」
思っていたことをピンポイントで答えられて一瞬ドキッとした。
それから数分歩くと、ある扉の前で止まり、フェルミがその扉をノックをせずに開いた。
フェルミの後に続き全員で部屋の中に入ると、そこには誰もいなかった。
「誰も……いない……?」
「いやいや、ここにいるよ」
誰の声とも違うその声に反射的に後ろを振り向くと、そこにはフードを被っている人が小さな箱を持ちながら立っていた。
かすかに見える顔は中性的で男性なのか女性なのかは判別できない。
箱の中には何故かたこ焼きが入っていて既に数個分隙間ができていた。
フードの人はしばらく吟味するように有希を見つめ続け、完全に目が合ってしまって有希は緊張で固まってしまった。
「ああ、ごめんごめん。 いきなりガン見するのは失礼だったね。 でも仕方ないだろう?久しぶりにこの世界にやってきたプレイヤーなんだから。 お詫びにこれをあげよう有希」
「……!? どうして私の名前を……?」
そう言って持っていたたこ焼きの箱を無理やり有希に持たせると部屋の中に入って1番奥にある席に座るとかすかに見える顔はニヤッと笑っていた。
「僕の名前は『ホロウ』。 イクシード商会の会長をやっているプレイヤーさ。 よろしくね。 有希の名前を知っている理由? 有希に限った話じゃないさ、僕は少なくともこの大陸中の全ての人の名前、年齢、身長、体重、その人の秘密とかも全部知っているさ。 試しにそこのフェルミの最近の悩みでも答えて見ようか?」
「話した瞬間口の中にナイフ突っ込むわよ」
「ははは、いやいや相変わらずツンツンしちゃって、そんなんじゃ誰にも好かれないよ?」
そのホロウの煽り文句にフェルミは今まで見せた表情よりもとても冷ややかな表情になり、有希は自分がなにかしたわけでもないのに背中がヒヤリと冷たくなった気がした。
「それより、この子達を連れてきた理由ってなんなの?」
イライラとしているフェルミがホロウに尋ねる。
「そりゃあ僕ってば人に優しいで有名だから人助けのために……なんて言っても信じて貰えるわけないか。 フェルミもイキシアも僕のこと損得でしか行動しない酷い人だと思ってるみたいだし! 酷いと思わないかい有希!」
その質問にどう答えればいいのか有希は困惑してただ愛想笑いをすることしか出来なかった。
「ま、普通起きないはずの街の外でこの世界に現れた、それも禁域の近くでってこともあるけど、一番の理由は君だよ、有希。 僕は君に興味があるんだ」
ホロウは有希に指をさしながら淡々と言った。
一斉に有希にみんなの視線が集まる。
「えっ……!? 」
有希は困惑の声をあげ、どういうことなのか上手く理解出来ていなかった。
「と、そういうわけだから一度有希と二人きりにしてもらうよ! それとフェルミ、二人は君達の家に居候させてあげてね!それじゃあはやく出ていった出ていった!」
ホロウは無理やり有希以外の三人を部屋の外へと追いやった。
「ま、とりあえず座ってよ有希」
部屋の扉をバタンと閉め、有希を近くのソファーに座らせると、その対面にホロウも座った。
「よし、それじゃあ始めようか、楽しい楽しいおしゃべりの時間だ」
「有希。 フルネームだと西園寺 有希。年齢は17、身長は158センチ、体重は49キロ。 スリーサイズは……聞く?」
「い、言わなくていいです!」
名前だけじゃなくて苗字も、さっき言っていた通り年齢身長体重、それに――いや!スリーサイズは合ってるかは聞いてないから本当に知っているのかは分からないか――
「エメラルドグリーンの髪と瞳のショートヘアの女の子。 性格は内気で人見知り、よくいる一見そこら辺にいるようなごくごく普通の女子高生。 僕はこのデータを『とある人』から教えてもらったんだ。 僕を思わず動かす程の情報と共にね」
とある人――私のことを知っている人――? それにそのよほどの情報って――まさか――!
「その話をする前にまずこの世界について説明をしようか。 あっ、言い忘れたけどここで話した事は他言厳禁だからね。 それほどまでこの世界の核心を突く話をしようとしているんだ。 忘れないようにしてね」
世界の核心――その話をフェルミさん達は知っているのか――?
「この世界は別次元に存在している他の世界で、何らかの不思議な力が働いてラノベやマンガよろしくの異世界転移で私たちが飛ばされた、という訳では無いんだ。 約千人ものプレイヤーが放り込まれたこの世界は人の手によって作られた世界。 人工的に作られた理想郷なのさ」
「人口的に作られた世界……? つまりここは現実世界なんですか……?」
「んー近からず遠からずってとこかな、今の僕達は言わばゲームの世界に体ごと入っちゃった、みたいな感じさ。 だからこの世界にやってきた人はプレイヤーと呼ばれているのさ。 まあこの世界の人のことを表す『ネイティブ』ってのは普通にそのまんまの意味だけどね」
なんでだろう、とても荒唐無稽な話に聞こえて来るのに嘘の話だとは思えない。
既にこの世界にやってきてることで慣れてしまっているからなのか、それとも――
「この誰かの作り出した誰かの理想郷に僕たちは閉じ込められ、ある者は元の世界に戻るために血眼になって打開策を探し続け、またある者はこの世界を真の世界として生活するものもいる。 そうやって皆が様々な生活をしている中、突如としてイレギュラーが現れた、それが……」
「私……ということですか?」
「ははっ、自分のことがしっかりと理解出来ているんじゃないか。 えらいえらい。 そこでだ。僕の持っている情報を元にある仮説を立てたんだ。 なあ有希、君はこの世界に来る前から『この世界を知っている』のだろう?」
今まで以上に鋭い視線が有希に突き刺さる。
「そ、そんな知らないですよ! まだこの世界に来てから一日ちょっとしか経ってない訳ですし、もしそうなら多分マナとかフェルミさんに相談してると思いますし……」
慌てて答える有希から視線を離すことなくホロウはずっと有希を見つめていた。
有希が喋り終わってもホロウは黙り込んで有希を見続け、その圧で有希は潰されてしまいそうに思えた。
「ふーん…… そうかそうか」
ようやく喋ったと思うとその一言だけで、さらにちょっとの間有希にとっての地獄の時間が続いた後、ホロウはさっきまでのラフな感じに戻った。
「いやいや、僕としたことが予想を外すなんてね。 ただ、君は君の知らない場所でこの世界と深い関わりがあるはずさ。 僕の
それからは今までの話とは打って変わって有希の好きな物とか趣味を聞いたりって話ばかりをしばらくしていた。
ただ、質問に答えようとするとホロウが有希に合わせて答えて有希の反応を見て遊んでいるような感じだった。
そして最後にホロウは忠告をするかのように有希に告げた。
「君は他のプレイヤーとも、ネイティブとも違う。 君自身が望む望まないに関わらず様々な事件が周りで起きるはずさ。 君がこの世界に来てすぐに黒炎の化け物とであったようにね。 だからこそ僕は君に期待し続けよう。 せいぜい頑張りたまえ、イレギュラープレイヤー」
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