第16話 交渉しますか?


「炉の改造、だと?」


 ギロリと睨みつけるドワーフ、気難しい職人気質オーラを纏った“ザ・ドワーフ”親方でございます!テンプレですよ、奥さん!

 目ぼしい目星をつけた工房に凸った変態三人衆、ザッキーを交渉テーブルに説得表示でセット、超文明技術を伏せてターンエンド。

 さぁ、どこからでもどうぞ?


「よいかの?炉ってぇのは、一度設置したら中々交換できんからこそ、どこの工房でも持てる技術や資産の大部分を投じて造られてるんじゃ。むしろ技術の出し惜しみはまず無いと思ってくれていい…おいそれとホイホイ手を入れられるもんじゃあないんじゃがのぉ。まあ腕が上がるとイチから作り直したくなる時もない事はないがな」


「出力の向上と生産性の…そうですね…最低二割増をお約束しましょう」


 メガネがあればクイッてしてたに違いない…あ、エアメガネクイッした!


「なっ二割だと!?単純に温度上げるだけで済む話じゃないんだぞ?」


「えぇ、炉心温度の上昇に応じて炉全体の強度向上、制御関連の一新と可能な限りの自動化で可能になります。こちらが設計図になります」


「おい…そんなもん簡単に見せていいのか?」


「問題ありません、各処に必要な魔導具はそれなりに繊細な調整が必要になります。仮に設計図が盗まれても運用管理どころか調整しきれず試験稼働も覚束ないでしょうねぇ」


「ふむ…見せてもらおう」


「どうぞ、どうぞどうぞ」


 ん?一瞬ザッキーがブレて見えたぞ?双子?

 唸りながら食い入る様に設計図に目を走らせる親方ドワーフ、ブツブツ何か呟いてるのがなんかソレっぽくていーですねー。


「…うむ、理屈は通ってはいるが…正直、処々の数値が理解できぬ…これで安定するのかのぅ?」


「同じ設計思想の装置で加工したものがこちらです、ご確認下さい。携帯用の小型な装置なのでこの大きさと量ですが…」


 取り出したのはゴーレムドロップを加工した小さめのインゴットが1ダース、そーいやなんか電子レンジみたいな機械で加工してたなー。

 親方は小さいハンマーで叩いて音聴いたり、お盆みたいな魔導具の上に乗せて分析結果?を見てみたり、一頻り矯めつ眇めつしたら溜め息を吐いた。


「恐ろしく揃ったインゴットだな…純度の高さは勿論だがそれ以上に恐ろしいのが純度も寸法もブレが見当たらない…察するにコイツは素手で触るようなモンじゃないんじゃろ?」


「何を作るか、によりますね。勿論素手で触らないようなデリケートな材料としてもイケますよ?」


 俺ちゃんに言わせればマルデダメなポーズで、詰め寄るザッキー…圧倒的な技術を背景にドワーフ親方に詰め寄る…コレって親方の返答がイェスでもノーでも擦り倒されたテンプレ展開じゃね!?ヤッベ体温上がってきたわ!


「……条件は?」


 人差し指でゆっくりと机の天板に己のリズムを刻みながら親方は問いかける。


「余剰生産力で、こちらの求める加工依頼を請け負う事…炉に隣接する一単位の土地の所有権と同時に街の外への私有地拡張権、そして同じだけの地下開発権…もっとも街の拡張は外縁部の工房に認められた権利だと理解してますが、如何せん我々はヨソモノですからね…貴方の様な実力ある職人の確実な後ろ盾は欲しいところです」


 瞑目して思索にふける親方…一瞬だけ握る拳に力が入るが直後大きく息を吐き、強くザッキーを睨み返答する。


「…断らせてもらおう。」


 片眉を上げたザッキーが問い質す。


「何故でしょうか?」


 顎髭を撫ぜながら親方は遠い視線で応える。


「正直に言わせてもらえばのぅ…お主らと専属契約してその叡智の全てを我が身で享受したい。なんならお主の靴を舐めてでも、否それでも足りんのぅ…今持ちうる全てと将来の全てを捧げてでも、と言ったところかいのぅ?」


 ザッキーは視線でその先を促す。


「おんしらは悪魔かあやかしの類なんかのぅ?」


 軽く自嘲した親方は姿勢を正す。


「我が身の不足に歯噛みする思いでありますが、我が手に余る一大事。されど矮小なるこの身、一族筆頭なれば血族一同の力を血集し尽力致したく申し上げ御座候。」


 軽く頭を下げただけなのに、見た事がない様な美しい礼に呼吸が止まる。


「この集落、最奥は御山の中腹から深奥に繋がる坑道に御座います。恐れながら御身の望む先は地中の果てかと…無論、平地の先にあるとしても咎める者などありませぬ。何卒、この地の深奥より我等を御指導御鞭撻の程、願い奉り御座候」


 ザッキーが少し困った様な視線を寄こすが軽く視線で促す。

 軽く息を吐きザッキーも眼つきを変え、応える。


「古来、解明しきれない現象を天使や悪魔の所業にに例えるのは世の習いなれど、我等は技術に敬意を払い未来を託す同胞に過ぎません。“知識を得た後先よりも先人の叡智を共に享受できる事に感謝と探求を”…我等の信条として受け継いだ文句です」


「はは…技術や現象ではなく、文言をこれほど美しいと感じたのは初めてですな…」



 ――――――――



 斯くしてドワーフ自治区の一等地中の一等地となる鉱山の中腹を掘り広げた秘密の広場の中央に工房を構える事になりましたよ!


 

 ドワーフ親方の畏まった台詞の一言一句がサブスペに出てきたシーンの再現だったのは正直言葉を失ったけどなー…世界と世界ってどっかで繋がってるんかな?

 



 

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